異国風に年明けを過ごそう

 ふと、意識が浮上した。頭上に違和感のようなものがあったからだ。
「あ、悪い。起こしたか」
 犯人はクロードの手の平だった。正体を知れば心地よさに変わり、再び目蓋が下がりそうになる。
「まだ眠いだろ? いいから寝てなよ」
 思い出した。ここはパルミラの王宮内で、王となったクロードの私室にいるのだった。年の瀬に半ば無理やり休暇をもぎ取って、秘密裏に招待を受けて連れてきてもらったのだ。
『本当は国をあげて歓迎したいとこなんだけど、パルミラはまだ異国人には厳しいから』
 フォドラもだが、一度根付いた風習はそう簡単にはなくならない。お互い、屈強な壁を取り除く戦いは当面続くだろう。
 眠気は覚めつつあった。立場の変わった今、こうして一緒にいられる時間は限られている。唯一の拠り所である手紙のやり取りも頻繁にはできない。
 一刻でも無駄にしたくなくて、剥き出しの胸元に身を寄せる。汗の混じったクロードの匂いが鼻腔を掠め、もっと堪能したくて深く息を吸い込む。
「ベレト……そういう可愛いことすると、また鳴かせちまうぞ」
 鼓膜を震わせた囁きに、背筋がふるりと粟立つ。
 寝室に来てからの記憶は正直曖昧だった。ただ獣のように与えられる悦楽に溺れて、喘いで、気づいたら意識を失っていた。
 それでも正直足りないと思ってしまうのは、おそらく冗談のクロードの誘いに乗りたくなるのは、気づかぬうちに淫乱になってしまったせい?
 羞恥を覚えながらも欲には勝てなくて、クロードの唇を求めた。予想に反してすぐ仰向けに縫いつけられ、たっぷりと舌を絡められる。
「……ふ、ぁ、くろー、ど」
「……っちょうど、いいかもな。姫始ってやつだ」
 どこか楽しそうな笑みを浮かべたクロードから聞き慣れない単語が飛び出し、意識が逸れた。
「ひめ、はじめ?」
「市場をこっそり視察してた時に見つけた本に載ってたんだ。いろんな異国の色欲事情が事細かにまとめられてて、非常に興味深い本だったね」
 行商人の話では、おそらく個人で出版したものとのことらしい。こんなことで世界の広さを改めて思い知らされるとは。
「そんな本が存在するのか……というか、まさか買ったのか?」
「読み物として単純に面白かったし、大好きなベレト先生をいろんな方法で愛してあげたいって思ったのさ。健気だろ?」
 そんな自信満々に言い切られても……。
「姫始ってのは、新しい年を迎えた時にこういう行為をすることを指すらしいよ。今の俺たちに相応しいじゃないか?」
 胸元を掠める感触に息を詰まらせる。どんな意図が込められているのか謎だが、たぶん深く考える必要はないのだと思う。新年を愛しい人と最高の形で迎えたいとか、そんな感じだろう。たぶん。
「ほら、ちょうど夜明けを迎えたし」
 気づけば、薄い光の筋が窓から数本伸びていた。完璧な舞台が整えられてしまった。
「だ、大丈夫なのか? 誰か来たりとか」
「俺が準備を怠ると思うか? 部屋から出るまでは誰も来ないよ。てか、ベレトだってやる気だったじゃないか」
「その、朝にするのは恥ずかしい」
 互いの顔も身体もはっきり見えてしまう。
「そんなのすぐ気にならなくなるさ。大体、我慢できるのか?」
 下半身に押し付けられたそれは、明らかな主張を伴っていた。もちろん他人事ではない。
「本当にいやならやめるよ。無理強いはしない」
 言葉とは裏腹に、こちらを見下ろす双眸は真逆の意を訴えている。ぐり、と刺激を与える動きまでされては、返せる言葉はもう決められたようなものだ。こうして強硬策に出る時は確信の裏付けだと知っているから、なおさらたちが悪い。
 悪いけれど、最高にクロードらしくて、たまらない。
 すっかり逞しくなった身体を両腕いっぱいに抱き寄せ、肩口に唇を寄せた。
「っちょ、先生? 今噛んだ?」
「お前が俺のものだって証だ。嬉しいだろ?」
 おまけに、耳元で吐息多めに囁いてやった。元教師として、やられてばかりの姿を晒すわけにはいかない。自分の身に起こる未来が想像できてもだ。
「……上等だ」

 その後、太陽の位置がすっかり高くなるまで寝台から解放してもらえなかった。全身はぼろぼろ、喉はからから、セテスに見られたら間違いなく説教される。
 事情を知る数少ない人物の一人であるナデルから呆れ混じりの小言をもらっているクロードの姿を眺めつつ、それでも「姫始」はたまになら悪くないなと思うのだった。

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