目的を終えて宿に戻ると、部屋の入口で白雪のしかめ面と対面することになった。
「えーと、お嬢さんお怒りで?」
「少しお怒りです。リュウからちょっと雑貨買ってくるって聞いたから」
当然のご意見だった。なぜなら予定外の出費が重なり、若干の資金不足に陥っていたからだ。
「まあまあ、俺が無駄な出費するわけないでしょ。軍資金には一銭も手をつけてませんって」
ちょうど欲しい金額分の短時間仕事を偶然見つけられたから買いに行ったのだが、おかげですっかり日が暮れてしまった。
「遅かったのはそういうこと……」
「あ、わかっちゃった?」
「なんとなく。仮にもゼン殿下に仕える身でしょ」
「ばれないばれない」
短くため息をついた白雪はそれ以上の追求を諦めたようだった。どうやらまた余計な心配をかけてしまったらしい。そこは素直に反省しよう。
「だいたい、オビがそこまでして買いたいものってなんだったの? 雑貨、ってことは武器とか関係なさそうだし」
「んん? 知りたい? お嬢さん」
「罰として。と言いたいとこだけど、無理にとは言わないよ」
扉の向こうからリュウの気配も感じる。内心微笑ましく思いながら、小さな紙袋を白雪の目の前に差し出した。
「え、な、なに?」
「お嬢さんに二個目の贈り物~」
一拍置いて驚きの声を上げる。つくづく贈りがいのある反応をしてくれて柄にもなく頬が無駄に緩んでしまった。
「これ、って髪留め?」
「そ。お嬢さん、髪伸びてきたでしょ?」
もちろん個人的に所持しているのは知っているが、一目見たときにどうしても白雪に身につけてほしいと思ってしまった。
「ほんとに、これのために……?」
「はは、高価なものじゃ全然ないけどね」
まるで宝物のように両手で胸元にしまい込む白雪がいとおしくて、笑って誤魔化す。
「そんなの関係ないよ。すごく可愛いし、身につけやすいよ」
「そう思うなら、ぜひつけていただけませんか?」
胸元に手を置いて、大げさに頭を垂れてみせる。
「……どう?」
背中を向けた白雪の首元に、赤い髪を束ねた髪飾りがさりげなく彩っている。しべの黄色を囲む薄い桃色の花びら、思った通りよく似合っていた。
「似合ってる似合ってる。あとでリュウ坊の感想も聞きたいね」
「これ、造花だよね? 触ってみた感じ、本物っぽくないから」
「だと思うよ」
「よかった。こんなに可愛いのに、すぐ枯れたらもったいないもの」
親指ほどの大きさの造花に触れながら、白雪はこちらを振り返って嬉しそうに笑いながらお礼を告げる。
ある程度予想していたとはいえ、実際目にするとなかなかくるものがある。衝動で行動してしまいそうな自身を必死に抑えながら、さりげなく距離を取った。
「こんなことして、主に怒られそうだなぁ」
「ゼンが? なんで?」
いくらお人好しの彼でも、白雪のこんな笑顔を独り占めしたかったと知ったら、本気で怒られそうだ。
心の中でゼンに頭を下げながら、わがままついでに背中で揺れる赤い髪にそっと、指先だけを触れた。
