芽吹かない蕾はない - 1/2

 ユーリって、本当にカッコいいんだ。
 見た目だけじゃなくて、どんな状況にいても落ち着いてるし、機転はきくし、何より決して諦めない。ボクみたいに情けなく逃げ出したりなんてマネ、見たことないし。もちろんジュディスだってユーリと同じくらいカッコいいし、ラピードも貫禄十分だし。
 だから、不安になるんだ。
 ボクが、一番年下のボクが凛々の明星の首領でいいのかなって。みんなはもちろん認めてくれてるし、こんな弱音吐いたら怒られるかもしれないけど、周りは絶対そう見ないでしょ?
 ユーリかジュディスの方が何倍もお似合いだ。ボクが他ギルドの所属だったらどうなんだろう? って思うもん。
 まだ凛々の明星は始まったばかりだから、焦ったって意味がないこともわかっているけど……でも、気になって仕方ないよ。

「無理ね」
 風に触覚をなびかせたジュディスは躊躇なく一刀両断した。バウルが泳ぐ空は今日も曇りない水色と白を敷いている。
「えっ、即答?」
「当たり前じゃない。凛々の明星の首領はあなた以外考えられない。私もユーリも、他のみんなだってそう思ってるわ」
「いやー、だからそれは仲間だから言えるっていうか」
「あら、みんなのこと信じてないの?」
 口元に微笑を浮かべてはいるが、多分少しだけ怒っている。最初はわかりづらかったジュディスの内面が理解できるようになってきたのは嬉しいが、怖い。
「そ、そうじゃないんだよ! ただ、貫禄がないじゃない?」
「貫禄なんてものはいずれ身につくものよ。早かれ遅かれ、ね。それは私かユーリでも同じこと」
 そうだとしてもと、どうしてもすんなり賛同できない。事実、依頼者に首領と名乗った瞬間、何度驚きと不安を与えてきただろう。二人のどちらかがいなければ依頼を受けることさえできない時もあるのだ。
「それに、想像してみて。例えばユーリが首領だったら、うまくギルドが回るかしら?」
「え、いけるでしょ?」
 実力は十分、見目も男女問わず引く男だから十分。看板男として申し分ない。
「あなたが今どういうことを考えてるか、なんとなくわかるけれど……やっぱりわかってないわ」
「な、なんでさ!」
「まず、愛想がないわね」
 ……確かに、それは否定できない。
「加えて、好き嫌いが激しい」
 それも、仰る通り。だが、仕事なら割り切ってくれる。はず。
「凛々の明星は新興ギルドだから、知名度と信用を上げることを何よりも優先しないといけないのに、そんなリーダーでは心許ないでしょ?」
 それでも、ユーリには生まれ持ったカリスマ性がある。言動が悪くてもそれで補えてしまう部分もあるから、どことなく憎めない。だからみんな、あの背中について行きたくなるのだと思う。
「まあ、もともとがリーダー向きじゃないのよ。例えば……そうね。フレンになら、その言葉はふさわしいと思うわ」
「フレンは、そうだね。ほんとぴったり」
 だからユーリとフレンはある意味相性がいいとも言える。
「じゃあ、ジュディスは? ジュディスならいけそうじゃない?」
「私も向いてないわ。命令を受けて実行する方が性に合っているし。それにいいの?」
 問い返すと、ジュディスは一層笑みを深めた。
「今の依頼って、護衛や討伐みたいな、いわゆる戦闘系が多いでしょ? 私みたいな戦闘スタイルは珍しいから、ある意味有利だと思わない?」
 なるほど。さすが、ジュディスには敵わない。

 仲間、しかも同じギルドメンバーではやっぱりだめだ。いや、認めてくれてるのはもちろん嬉しいけど、どうしても素直に受け取れない。
 ――そうだ。フレンなら、ユーリと一番付き合いの長い彼なら、きっとこの訴えをわかってくれる。

  + + + +

 ザーフィアスで依頼者に仕事の報告を終えて宿に戻る途中、偶然フレンと再会した。この付近に根城を持っていた盗賊団にたまたま遭遇したことで騎士団に壊滅の協力をして以来だから、一ヶ月は経っている。
「ちょっとぶり、かな? カロル。仕事かい?」
「うん、報告が終わったとこ。フレンは? 鎧、着てないよね?」
 ユーリほどではないが、青い長袖のシャツに黒のパンツと、かなりシンプルな服装をしている。剣も携えてはいるが、それも護身用と呼ぶに相応しいようなつくりだ。
 フレンは苦笑しながら金髪を軽く掻いた。
「ソディア達に、休暇を取るようきつく言われちゃって」
「あー……フレン、また無理したんでしょ」
「僕はそんな自覚ないんだけどね」
 この人も、どこかの親友と同様に無茶が大好きだから、周りは心配で仕方ないのだろう。部下二人の困惑気味の顔が目に浮かぶ。
「ユーリ達は一緒じゃないのかい?」
「うん。ジュディスとラピードとで、大掛かりな護衛をやってるよ。明日帰ってくるかな」
 この地方では名の知れた貴族の娘が嫁入りするらしく、道中の護衛を任された。星を救ったギルド、という噂で決めたらしい。
「凛々の明星も本当忙しくなってきたよね。僕も時々仕事を依頼してるけど、知り合いってことを抜きにしてもすごく安心できるし」
「……ほんと?」
「……カロル?」
 相談に、乗ってもらえるだろうか。
 けれど、せっかくの休暇を邪魔するのも悪い。
「もしかして、僕に何か話があったりする?」
「えっ、な、なんで」
「目がそう訴えてるよ」
 自分の中で、そんなに深刻だったのだろうか。
「……お休み中なのに、いいの?」
「もちろん。というか、正直どう過ごせばいいか困ってたんだ」