虜になってしまいそう

 例のものができた、と自室に招待すると、フードを取ったエクラは目を輝かせた。
「す、すごい! ほんとにコタツだ!」
 自国の職人だけでなく各異世界の英雄にも協力してもらい、彼が寒い時季に愛してやまないという「コタツ」なるものをこしらえてみた。
 大人一人がゆったり座れるぐらいの長さで揃えた正方形の卓に、脚が隠れる大きな布団を被せ、さらにその上に丈夫な板を載せている。重量があるので意外とぐらつきはなく、エクラの言う「ミカン」やお茶などを気軽に楽しめるつくりになっている。
 コタツの内側には、エクラいわく内部を暖めるための道具がつけられているらしいのだが、そのための設備はないので代わりに炎の魔法を緩く込めた術具を設置してもらった。
「わあ、暖かい。ね、アルフォンスもおいでよ」
 誘われて武器を置き、エクラに倣って足具も脱いでエクラの右隣に座る。
「うん、本当だ。ちょうどいい暖かさだね」
「でしょ? 僕がいた世界のコタツは、暖かさを調節できる機能があってね。うっかりここで寝ちゃうくらい心地よくできたりもするんだよ~」
 じゃあ物足りないのでは、とつい思ったりしたが、当人はテーブルに頬を預けてどこかうっとりとしている。
「最近ちょっと寒いからか、ついコタツが恋しくなっちゃって……なんかわがまま言ったみたいで、ごめん」
「いいんだよ。君が僕たちを頼ってくれたの嬉しかったから」
 エクラは軍師という立場上、前に出て敵と戦うことは基本ない。それを申し訳なく感じているのか、いつも周りに気を配って、自身のことは二の次にしている。
 なんでもいいからエクラの喜ぶことがしたいと英雄たち共々と考えていたところだったから、皆待ってましたとばかりに力を貸してくれた。
「それに、君の世界のことをまたひとつ知れてよかった」
 敢えて顔を寄せて囁くと、エクラの頬がたちまち薄紅色に染まってゆく。久しぶりに二人きりの贅沢な時間を過ごせて、無自覚に舞い上がっているらしい。
「そ、そうだ。これ持ってきたんだ」
 慌てて背中を向けたエクラの可愛さで自然と緩んだ口元の前に、突然なにかを差し出された。
「これは?」
「アイス。なんて言えばいいかな、甘くて冷たいお菓子だよ」
 ナイフほどの長さの白い菓子だった。一口かじると、牛乳とほのかな甘みが優しく口内を満たす。
 例えば果実の絞り汁を冷やして固めたデザートなんかを見たことはあるが、そのようなものだろうか。
「これ、君が作ったのかい?」
 皿に載っていたもう一つの氷菓子を見て尋ねると、エクラは少し照れたように頷いた。
「うん。牛乳と砂糖があれば簡単に作れるから。僕の世界だと、もっといろんなアイスがあるんだよ」
 いただきます、とご機嫌に頬張る姿はとても可愛いしいろんなアイスも気にはなる。
「でも、暖まってるのにわざわざ冷たいものを食べるなんて……」
 すると、エクラはわざとらしく舌を鳴らしながら氷菓子の刺さっていた棒を左右に振ってみせた。
「わかってないなぁ。これが最高の贅沢なんだよ! ほら、暑いときに辛いもの食べたくなるのと同じみたいなものだよ」
 その心は正直よくわからなかった。が、幸せそうなエクラを堪能できるだけで嬉しい。
 しかし、そろそろ久しぶりの逢瀬の時間の方をもっと堪能させてほしい。
「ねえエクラ。コタツで質問があるんだけど、いいかな」
「もちろん」
「恋人同士ならではの使い方って、あったりする?」
 エクラは真っ赤な顔で固まった。落とした木の棒を自分のものと一緒にテーブルの端へ片付けて、顔を覗き込む。
「エクラ?」
「しっ、知るわけないでしょ。だいたい恋人できたのは君が初めてだし」
「ふふ、そうなんだ。光栄だね」
「だ、だからほんとに知らないんだって!」
 ついに顔を手のひらで隠してしまった。そういう行動こそがある意味命取りだというのに……。
 なるべく気配を殺してコタツから一度出る。移動先は説明するまでもない。
「ちょ、ちょっとアルフォンス!?」
「思った通りだ。もっとあたたかくなったね?」
 エクラの背中を包み込みながら、再びコタツに入る。いつもフードに覆われている耳だけでなく、首元までもが顔と同じ色に染まった。
 自分も恋愛に関しては初心者だと思うが、それ以上に初なエクラの反応を目の当たりにするたび、ついからかいたくなってしまう。自分にこんな一面があるとは驚きだ。
「どう、エクラ?」
「漫画で、見たことあります……」
「絵で構成された娯楽用の書物だったね。うん、よかった」
「こっちはよくない……」
 コタツの素晴らしさに感動しながら、次はどんな「恋人らしい」ことをしようかと密かに画策するのだった。

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