穏やかな波に揺られたような心地で、瞼を持ち上げる。全身はまだ気だるく、動かすのも億劫に感じる。
ぼんやりとした視界に映る天井は、薄闇に染まっていた。予想通り、夕方を過ぎてしまったようだ。
「目が覚めたか」
顔だけを向けると、タバコをくゆらせる赤井の横顔が映った。空いた手は、引き寄せるように自分の頭に触れている。
ベッドサイドに手を伸ばすと、意図を察した赤井が引き継いでくれた。淡いオレンジが、互いをじんわりと照らす。
「すまない、無理をさせてしまったな」
思わず笑うと、怪訝そうに見返された。
「だって、オレから誘ったんだよ? っていうか……むしろ、嬉しかったし」
食い尽くされるんじゃないかと錯覚しそうなほど求められる日もある。今日はそれだった。
どんな愛され方でも嬉しい。これ以上ない幸福で満たされる。満たされるからこそ……。
身体を懸命に持ち上げて、腹部のあたりに頬を寄せる。ぬるま湯のようなぬくもりに、ますます離れがたくなってしまう。
「連絡はしなくて大丈夫なのか?」
「……蘭姉ちゃん、泊まりすぎて申し訳ないから、今度お礼しないとって言ってたよ」
「……なら、俺もボウヤと会えて嬉しいから気にする必要はないと伝えておかねばな」
そして、小さく笑い合う。
こんな時間がずっと続けばいいのにと、つい不謹慎な考えがよぎってしまう。
――不謹慎なのだ。赤井がここにいることは、黒の組織が未だ壊滅していない証拠だから。
だから、未来を想像して複雑な気持ちになる。赤井と出会う前は喜びしかなかったのに、今はマイナスの感情も生まれて、ふとした拍子に表へと出てきてしまう。
「そろそろ、メシにしよう。ボウヤも腹が減っただろ?」
動いた身体を、反射的に押さえ込んでしまった。力の差は歴然でも、意志は当然伝わってしまっていた。
「ご、ごめんなさい。なんでも、ないから」
「自分に関する嘘は相変わらず下手だな、ボウヤ」
顎を掬い上げられて、否応でも視線が絡み合ってしまう。
「ほんとに、なんでもないんだよ。赤井さん」
「ボウヤがそうやって濁す時は、俺にとっては大した問題じゃない場合がほとんどだったぞ」
今回はとてもそう思えない。赤井と離れたくない、なんて困惑を生んでしまうだけだ。
赤井だけじゃなく、自分も。
勘弁してほしい。そう思いを込めて見つめ返すと、意外にもあっさり解放された。
「こういう時は無駄に強情だしな。今は逃がしてやるさ」
決して逃しはしないと、はっきり聞こえた気がして乾いた笑いがこぼれる。
「いい加減、もっとわがままを言ってほしいものだ。なあ、ボウヤ」
わざとらしい口調に嫌な予感が広がっていく……が、無理やり振り払った。気づいているはずが、ないんだ。
「ねえ、ごはん食べよう? 僕も手伝うからさ」
まだだるさの残る全身に無理やり勢いをつけてベッドから降りる。背中に刺さる視線には気づかないふりを通した。そうでなければ、らしくなく縋ってしまいそうだった。
――帰らないで、なんて言えない。言えないから、できる限りの時間を刻んでおくんだ。
つかの間の夢なら、見ていたって構わないでしょう?
