■ 思わず
「お嬢さん、その髪飾りまだ持ってたんだ」
色とりどりの花を売っている黄色いワゴンを見つけた白雪が買い物を終えて戻ってきた。春を間近に迎えたウィスタル城下町はどこか明るく、開放的な雰囲気をまとっている。
「あ、うん。可愛くて気に入ってるし」
当然のように白雪は笑って答えた。硝子の玉に繋がれた白い房が風に揺れる。
この場に主がいたらどう思うかな……。
さすがにゼンへの同情を隠せない。嫉妬深い彼は複雑に思うだろうが、それも彼女は気づかなそうだ。
「オビ?」
「いや、主がすごく気の毒だなと思った次第で……」
やっぱりよくわかっていない。普通恋人以外の男からもらったものを「可愛いから気に入っている」という理由で所持し続けるだろうか。いや、白雪はそもそも普通の少女ではなかった。いや、それで結論付けるのもどうなんだ。
「って、こんなところでぼさっとしてられないよ。ゼン達に頼まれた買い物、まだ終わってない」
「はいはい」
颯爽と歩き出した白雪の背中をぼんやり眺める。
――もし。もし今、あの髪飾りに触れたら……。
ゼンと恋仲の白雪。その彼女が、自分がプレゼントした髪飾りをまだ持っていて、身につけてくれている。
白雪としては深い意味は全くない。けれど、自分からしたら……。
「オ、オビっ!?」
我に返った時は、さすがに全身の熱が引いた。
こんな道の往来で、手を伸ばすだけならまだしも、まさか騎士のように唇を、触れてしまうなんて。周りの視線が落ち着かない。
「あ、えーと……」
とっさに距離をとってうまい言い訳を考えるも、頭の中はみっともなく右往左往しているだけで全く役に立っていない。
「……もしかして、近々騎士っぽいことでもするとか? 予行演習?」
無言を通していた白雪の口が開いたと思ったら、その仮説はなんなんだ。別の意味で何も言えない。というか普通ここはビンタか何か飛んでくる場面だろう。
「お嬢さん、なんで怒らないの」
「怒るっていうか、びっくりしかしなかったよ」
「いや、だって俺、主じゃないし」
「よくわからないけど……オビは意味もなくあんなことする人じゃないでしょう」
つまり、意味のある理由を考えついた先がアレということか。
「な、なにオビ。その長いため息」
「いや、なんでも。びっくりさせてごめんね、お嬢さん」
白雪の鈍さにありがたさと寂しさを覚えながら、まだ視線の残る人波を歩き出した。
