昨日の休日は珍しく、朝から積もるタイプの雪が降っていた。
夜遅くまで降っていたようで、日の当たっている場所でもくるぶしまでが余裕で隠れてしまうほどの積もりようだった。
そうなるとなんとなく、放課後に待ち受けている生徒会の仕事が見えてくる。
「やっぱり、雪かきの仕事回ってきたね」
「うむ。まあ、これも残りの生徒会仕事を楽しむつもりでやるさ!」
「生徒の利用が多い箇所限定でよかったです。それでも結構時間はかかりそうですが……」
空也の前向きさに引きずられる形で、とりあえず中庭から攻めていくことにした。適当にばらけて雪を脇にどかしていく。
――ちょっとだけなら、遊んでもいいかな。
本当は雪合戦がしたいのだが、間違いなく高東のお小言が飛んでくる。仕方ないので小さめの雪だるまを作ることにした。
雪のほとんど降らない地域に住んでいるせいか、積もっているのを見ると気分が高揚してきてしまう。昼休みにやりたかった雪合戦を楽しんでいる生徒もいたが、その輪に加わることは叶わなかった。
「やあ、勇気くん。何してるんだい?」
叶わなかった原因の人――ジョーカーがにこにこと歩み寄ってきた。
「ジョーカーさん!」
作る手は止めずに、笑顔で恋人を見上げる。
「さっきから頑張って雪かきしてるなーって思ったら突然しゃがみだしたから、気になって来てみたんだけど雪だるま作ってるの?」
「はい。本当は雪合戦したいんですけどね」
――昼は、ジョーカーさんがデュラックの部屋に連れて行って、チャイムが鳴るまで放してくれなかったから。
事に及んだわけではないが、とろけるようなキスをたくさんされたり身体中を優しく撫で回されたりと、散々愛されたことを思い出すと全身から火が出そうになる。
かすれたような声で名前を呼ばれると、それだけでジョーカーに逆らう気持ちは失せてしまうのだ。
「あー、昼にみんながやってたやつね。君も外、出ようとしてたもんね」
「そうですよ。ジョーカーさんに捕まっちゃいましたから」
不満な気持ちはやっぱり隠せなくて、少しだけ頬を膨らませる。視線を合わせたジョーカーは不敵に笑って、頬をつんと突いてきた。
「だって、みんなの人気者エース君をあんな大人数の輪の中に入れるわけにはいかないでしょ?」
明らかな独占欲に顔が熱くなる。そのまま抱きしめられそうになるのを悟って、慌てて口を開く。
「じゃ、じゃあ、俺いま雪だるま作ってるので……続き、作らせてください」
ジョーカーのことは大好きだが、振り回されっぱなしなのも悔しいと思ったのが伝わったのか。
動きを止めた彼はアイスブルーの瞳を細めて、あっさり頷いた。
……のはよかったのだが、少し離れた場所でにこにこと眺められていると、どうにも落ち着かない。
「あの、ジョーカーさん」
小さめのスタンダードな雪だるまを二つ作ったところで、たまらずジョーカーのもとに駆け寄る。
「ん? もう満足したの?」
「そうじゃなくて! ……あの、ジョーカーさんも雪だるま作りましょうよ」
「僕はいいよ」
予想通り、拒否されてしまう。
「雪だるまなんて、って思うかも知れないですけど、結構楽しいですよ!」
「僕はロシアでさんざん雪見てきてるしね。それよりも、君のことをこうして見ている方が楽しい」
後半を耳元で囁かれて、二の句が告げなくなってしまう。
「フフ、赤くなった。じゃあ……」
背後に回ったジョーカーに、全身を包み込まれてしまう。
「じょ、ジョーカーさん!?」
「あ、すっごくあったかくなった」
「そ、そりゃそうですよ!」
こんなところで、いや、ジョーカーにとって場所は関係ないし、自分もときどきそれを忘れて夢中になってしまうこともあるが、とにかく恥ずかしい。
「こ、これじゃあ雪かきできませんから!」
「ずっと雪だるま作ってたくせに?」
それを突っ込まれたら何も言えない。
「雪かきの続きは隼人にやらせるからいいよ。君はこっち」
反論も止める余地も与えず、ジョーカーは慣れた様子で千葉に雪かきを依頼し、デュラックの部屋へと向かう。ソファに腰掛け、自分は横抱きで膝の上に座らされた。
「やっぱり。手が真っ赤だよ」
「ぜ、全然気づかなかった……」
そういえば手がじんじんと鈍い痛みを訴えている。雪いじりが楽しい、けれどジョーカーに見られて落ち着かないで、そこにまで気持ちがいかなかった。
「抱きしめた時、身体がすごく冷えてたからね。風邪引いたら大変だから、勇気くんはしばらく僕におとなしく抱きしめられてること」
頭を優しく撫でる手つきが、気持ちいい。自分を見つめる瞳も、とても柔らかい。
――どうせ嫌と言っても、彼は放してくれない。
それに、こうしてくっついているのは、むしろ好きだ。
昼休み分だけじゃ、足りない。ジョーカーが求めているように、自分もこうして求めてやまない。
自然とくちびるを寄せていくと、当たり前のように受け止めてくれる。
そのまま深くなり、舌を絡める口づけを、嬉々として受け入れるのだった。
