放課後、はりきって生徒会の仕事をこなしていた朝比奈は、東屋で見慣れた背中を見つけた。
「あ、伊藤せんせ……っとと」
慌てて口を抑える。
背中を柱に凭れさせて、副担任の伊藤が何かの書類を抱えたまま気持ちよさそうに眠っていた。
「こんなところで居眠りなんて珍しいなぁ。疲れてるのかな?」
朝比奈にとって、伊藤は保険医の松岡と同じくらい親しみやすくいろいろと相談しやすい先生だった。
何より伊藤のそばにいると、とても安心するのだ。
いそいそと隣に座って、寝顔をじっくり眺めてみる。
「可愛い、よなぁ。ほっとするし」
先生に向かって言うべき言葉ではないだろうが、素直にそう思ってしまう。ほんわかするというか、自然と口元が緩んでしまうというか。例えば苛々が募っていても、伊藤と話をすれば綺麗さっぱりなくなっていそうだ。
以前、松岡が「伊藤先生はね、今の君みたいにとても人気者だったんだよ」といたずらっぽく笑って教えてくれたことがあったが、何となくわかる気がする。
(俺自身は言われるほど人気者じゃないと思うけどね)
忘れずに突っ込んで、小さく苦笑する。面白がられている、の方がまだ納得できる。
(こないだもジョーカーさんにだまされて、オカ研のトンデモ話を信じちゃったし。あ、千葉さんも信じて部屋飛び出しちゃってたけど)
思いきり伸びをして、目を閉じる。優しく身体を撫でる風に乗って、新緑の香りが鼻腔をくすぐる。夕方も近いのにちょうどいい暖かさなのは、夏の足音が近づいてきている証だろう。
身体の力が少しずつ抜けていく。隣の体温の力も手伝ってか、朝比奈の意識は完全に沈んだ。
