欲しくて欲しくてたまらない - 2/2

 シャワーもそこそこに、濡れた裸体のままベッドに倒れ込み、再び貪るようにキスを交わす。
 寮じゃない。理事長室でもない。ここには恋人しかいない。
 その事実が、想像以上に大胆な気持ちを生み出していた。
「トモ……キス、もっと」
 水上を漂うような心地の中で呟けば、すぐに智友の唇が降ってくる。
 意識が、沈んでいく。
 キスが気持ちいいものだと、智友と付き合うまで知らなかった。ただ触れ合わせるだけでは物足りないと、呼吸まで奪うような深いものをと、際限なく求めてしまいそうになる。
 そんな渇望は、突如割り込んできた別の刺激に邪魔される。
「ふ、ぁっ」
「乳首、もう勃ってる」
 ぼやけた視界の先から、小さく笑った智友が消えた。瞬間、両方の胸からじわりとした刺激が広がっていく。
「や、だ……りょう、ほう、やだ……ぁ」
「でも、気持ちいいんだろ? すごく、びくびくしてる」
 先端を摘まれるたび、唇で吸われるたび、背中が反り返って胸元を突き出してしまう。まるでもっと弄って欲しいとねだっているようで、恥ずかしくて仕方ない。
「っひ、ぅっ!?」
 口内に含まれたままの先端の付け根からぴりっとした刺激が走り、悲鳴に似た声がこぼれた。あの硬い感触は「歯」だ。
「ば、か……歯、立てんなっ……」
「さっきより気持ちよさそうにしてるのに、か?」
 今度は音を立てて強く吸われ、喉を仰け反らせてしまう。どんどん感度を増してきている乳首から生まれた熱は、容赦なく身体の中心へと集まっていく。
 ああ、腰が揺れている。智友に触って欲しいと、言外に訴えている。
 それはしっかりと伝わっていたらしい。
「ここ、もうぬるぬるだ」
 待ち望んだ感触を与えられて、溜め息のような嬌声が上がる。
 自慰をするように、包み込むように、少し荒々しめに。先端の割れ目も根元に続く部分も擦られ、袋も揉みしだかれてはしたなく喘ぐしかできない。
「っひ、あぁん!」
 突如生温かい感触に覆われて、大きく身体を震わせてしまう。
「一回、イっとこうぜ」
 口の動きがいつも以上に激しい。強い。
 甲高い、鼻から抜けるような声が絶えない。もはや我慢もできない状態だった。
 快感が一気に中心へと収束していく。頭が真っ白に染まり、智友に腰を押し付ける格好を取ってしまう。
「や、あああぁ……っ!」
 智友の口内に思いきり白濁を吐き出して、糸の切れた操り人形のように全身から力が抜けていく。咀嚼音が聞こえても何も反応できなかった。
 こんなに気持ちいいのは、場所が違うから?
 達したのに、身体の奥の疼きがあまり弱まっていないのも、そのせい?
 いつも以上に欲情しているのは明らかだった。気持ちも少しずつ開放的になってきた気がして、秘孔に触れていた智友の手を掴んだ。
「え、勇気?」
「ねえ……俺も、したい」
 短く息を吸う智友に、改めてはっきりと告げる。
「トモの、舐めたい」
 困惑の抜けない智友には構わず、そそり立っている中心に顔を近づけていく。
「ま、待てって。ムリ、すんなって」
 自分と同じモノ。
 けれど大きさも、鼻腔を刺激している匂いも、違う。誰よりも愛おしい、恋人のモノ。
 そう、愛おしいのだ。
 その気持ちのまま、先端を口に含んだ。
「う、っ……」
 頭上から詰まったような呻き声が聞こえた。かすかな震えが伝わってきたことも嬉しくて、智友がするように割れ目を舌先でなぞり、剥き出しの箇所を両手でそろりと扱いてみせる。
「トモ……っん、きもち、い?」
 見上げた先の智友は眉間に皺を作って、溢れる快楽から必死に耐えているようだった。薄く開かれた唇から低い吐息を漏らす姿は、たまらなく色っぽい。
「ゆ、うき……もっと深く、くわえて……」
 言われた通りに根元近くまで飲み込むと、一層の喘ぎが注がれる。
 ――トモが、感じてくれている。自分の愛撫で、気持ちよくなってくれている。
「……お前、感じてる、のか」
 惚けた声で問われて、同じ調子で訊き返す。
 智友を悦ばせることに神経を注いでいるから、言われてもわからない。
「だって……腰、揺れてる」
 くびれ辺りを撫でられて、初めて気づいた。
 熱い。さっき達したばかりの中心がまた、熱を集めている。きっと、智友の反応に触発されたせいだ。
 好きな人が素直に欲へと身を任せている姿は、なんて扇情的なのだろう。彼がいつも「声を聞きたい」「顔を見せて」とねだる意味が、今やっとわかった。
 ――イく姿も、見たい。
 心臓を痛いほど高鳴らせながら、咥えたままの口をすぼめて吸い上げる。
「っば、だ、めだって!」
「ひい、から。イって、トモ」
 頭を掴んで引き離そうとする両手に逆らう形で、無我夢中で智友の中心にむしゃぶりつく。大きさも硬度も増してきたところで、先端に軽く歯を立てた。
「! ん、むっ……」
 一際大きな艶声が聞こえたと同時に口内のそれが震え、熱く粘着のある液体であふれる。
 苦い。まずい。
 とっさにそんな感想が浮かぶが、智友のものだと思えば関係ないほどに愛おしく、全て体内に収めたいと願ってしまう。
「お、おい勇気!」
 焦った智友の顔を半ばぼんやりと見つめる。
「飲まないで吐き出せよ!」
「なんで?」
「いや、だって……不味いだろ?」
「そんなことないよ。だって、トモのだもん」
 口元が緩んだから、おそらく笑いながら言えたのだと思う。
 智友は返事を完全に飲み込んでしまった。
「……お前、ホント、大胆すぎ」
「えへへ。場所のおかげかな」
「なら……これからも、たくさん外に出かけなきゃな」
 にやりと口端を持ち上げた智友が、キスをする。初めは優しく、徐々に激しく、落ち着いた熱を再び湧き上がらせるように。
 先程の快感と相まって、我慢の効かない欲が出口を求めて荒れ狂う。
「ト、モ……っ俺、も、苦し……」
「ああ、わかってる」
 優しく押し倒した智友はベッド脇を探ると、何かを絞り出す音を立てた。正体を悟ったと同時に、後ろの窄みに滑らせた指を少しずつ押し進めてくる。
「く……っあ、ぁ」
 異物が侵入する瞬間には、まだ慣れない。それでも本当に最初だけで、後は自ら求め、入り口をひくつかせてしまう。
 前をただ弄られるよりも気持ちいいのだと、すっかりこの男に教えられてしまったから。
「ここが、感じるんだよな……」
 入り口に近い場所を指先で突かれ、腰が別の生き物のように跳ねる。そのまま何度も強弱をつけて刺激されれば、自身の先端は自覚できてしまうほどの液体を垂らし、濡らしていく。
「あうっ……あ、も、トモっ……!」
 もう、指はいやだ。
 もう、智友自身が欲しい。智友の熱いもので、遠慮なく貫いて欲しい。
 操られたように上半身を起こし、逆に智友を押し倒す。ベッド脇から、先程智友がいたずら半分に手にしていた包みを取り出して封を開け、たどたどしく装着していった。
「……俺、トモが欲しい。すごく、欲しいんだ」
 驚愕するばかりの智友をまっすぐ見つめ、顔から燃え尽きてしまいそうなほどの恥ずかしさを湛えて告げる。
 淫乱だと、呆れられてしまっただろうか。
 でも、自分なら嬉しいと思うから。恋人が素直に欲情してくれると、本当に愛されているのだと骨身に染みるから。
「もう、なんなんだよ……!」
 ふいに、抱きしめられる。
 強い、なんて生易しいものではない。気を抜くと押しつぶされてしまうと錯覚するくらいに力を込められて、息が詰まりそうになる。
「お前……そんなに俺のこと挑発して、歯止め効かなくなるだろ……!」
「いいよ、いいから……早く、俺の中に、入れて」
 その言葉がとどめだったのかも知れない。
 身体が解放されたかと思うと、噛みつかれるようなキスを受ける。脳までもを吸い取られそうな勢いに、目を閉じていても視界のぐらつきを感じてしまう。
「……なら、さ。今日は、お前が上に乗ってくれよ」
 上に、乗る?
 朦朧とする自分をよそに、智友は再びベッドに上向きになる。腿の辺りを両手で撫でられたところで、頭の中の霧が晴れた。
「お前が動いてるとこ、見たい。……見せて」
 勝手なんて、わからない。
 けれど、それでも、智友が望むなら。
 智友の腹の上に跨って、硬く天を向いている中心に手を添えながら自らの窪みにあてがう。智友の支えを借りて、少しずつ腰を下ろしていった。
「ん、あ……っあ、ああぁ……!」
 いつもと違う体勢が、こんなにも甘い痺れを生み出すなんて。もしも智友から突き上げでもされていたら間違いなく二度目の絶頂を迎えていた。
「っあ、トモ……どう、したら……」
「動いて、みろよ。お前が気持ちいいように、腰、動かして」
 魔法にかけられたように智友の腹部に手を置いて、ゆっくりと腰を上下させる。
 ――こんなのじゃ、足りない。もっと、もっと強い刺激が欲しい。
 もっと違う場所を、奥を、突いて。抉って。
「は、ん……っふぁ……ん、あぁ……!」
 いつしかベッドに両手をついて、胸を智友に突き出すような格好で抜き挿しを繰り返していた。埋められた先端が最奥を突くたび、意識が飛ぶくらいの甘さが下半身を走る。それを無我夢中で追い求め、動きを止められない。
「っあうっ!?」
 いきなり下から突き上げられて、恍惚とした気分が霧散した。だが突き上げは止まらず、上半身を智友に預けてしまう。
「いきなり、なに……!」
「もう、無理。我慢できない」
 耳元に注がれた声は熱でかすれていて、普段の余裕は微塵も感じない。その原因が紛れもない自分だと思うと、たまらなく嬉しくなった。
 腰を掴まれ、全く遠慮のない突き上げが絶え間なく繰り返される。呼吸をするのもやっとの状態でも舌を絡めるキスをされ、耳朶にも舌を這われ、快楽に四方を囲まれてしまう。
 まるで底なし沼だ。
「……っま、って……も、おか、しくなる……!」
「おかしく、なれよ……」
「ひ、あ……ああぁ、う……っ!」
「もっと喘いで、気持ちいいってねだる姿、見せろよ……!」
「ト、モ……トモ……っ!」
 たまらなく気持ちいい。智友が大好き。
 言葉にならない代わりに智友を見つめて、いつもなら抑えようとする喘ぎを絶えず吐き出す。耳元に唇を当てると中のモノがさらに大きさを増した。
 熱が急速に集まっていく。智友の呼吸の感覚も短くなり始めた。
 同じ状態にいるなら、終わりも一緒に、したい。
「お、れ……も、だめ……イ、く……っ!」
「俺も……限界だ……」
「トモ、いっしょ、に……」
「あぁ……一緒に、な」
 智友が勢いのままに最奥を貫いた瞬間だった。
 声にならない声が喉からせり上がり、じんわりとした感触が触れ合った肌に浸透していく。
 名前を呼びながら短い悲鳴を漏らした智友が、自身を中で震わせてしがみついてくる。その背中に腕を回そうとして、意識が途切れた。

  + + + +

 目覚めると、チェックアウトまで一時間を切っていた。すっかり寝入っていたらしい。
「ごめん、トモ。俺の身体とかきれいにしてくれたんだろ?」
「別に気にすんなって」
 すっごく可愛くてえろい姿、見せてもらったし?
 耳元でそう続けられて、ここが室内で本当によかったと思った。
 そのままどこにも寄り道せず、まっすぐ学園に向かう。その道中は変に恥ずかしい空気はなく、喋りたい時に喋り、笑い、乗り物の揺れに眠気を触発されてと、普段と何も変わらなかった。
 それが嬉しかったのは、きっと自分だけじゃない。
「じゃ、また明日な」
「……あの、ちょっとだけ上がってもいい?」
 返答を待たずに、部屋に上がり込む。戸惑いがちに名前を呼ぶ智友の服の裾を掴んで、続けた。
「ねえ、トモ。俺……また、泊まりで出かけたい」
 察しのいい智友が、気づかないわけがない。
 急激に頬が熱くなってきて、慌てて踵を返そうとする。
「待てよ」
 呆気なく捕らわれ、ふわりと背中から抱きしめられた。
「……期待して、いいんだな。お前が、これからもたくさん、俺に抱かれたいって」
 ――抱かれたい。
 まるで媚薬のように、全身を甘く満たしていく。
「ト、モ……」
「覚悟しろよ? もう、絶対逃してやらないから」
 不敵に笑う智友に、ただ小さく頷いてみせた。

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