「お疲れーっす。あ、プレゼントほんとありがとうございました!」
膨らんだ紙袋を掲げて頭を下げると、どこか照れたような笑顔がたくさん返ってくる。自分も何だかくすぐったい気持ちになって足早にその場を後にした。
都会以上に夜空を飾る星をぼんやりと眺めながら、頭の中では今日のことが思い返される。
「あいつらも、似合わねーことやってくれちゃって……」
昼休み、いつものように皆で集まっている最中に突然目の前で全員整列し、「誕生日おめでとう」の声と共に差し出されたプレゼント達は大事に鞄の中へと収めてある。皆こぞって大したものではないと謙遜していたが、中身以上に気持ちが大事だと思っている自分としては十分嬉しい。
(ま、里中辺りはネタ仕込んでそうだけどな)
半分不安がよぎるが、まあ、問題ないだろう。……おそらく。
その時、携帯から一番好きな曲の着メロが流れた。慌ててポケットから取り出してディスプレイを確認する。
思い描いた通りの名前が、あった。
「もっ、もしもし!?」
『ははっ、どうしたの? そんなに慌てちゃって』
「どっ、どうしたのって、そりゃお前からの電話だし……!」
悠と話すのは久しぶりだった。お互い受験を控えている上、同じ大学を目指すとあってはメールも電話もなかなかしにくい。テンションが上がるのは当然だ。
『電話、久しぶりだもんな。俺もこうして陽介と話せて嬉しい』
「お、おう。お前ここ最近忙しいって言ってたしな。家庭教師のバイトだったっけ? 落ち着いたのか?」
『ああ、やっとね。短期間だったけど心配かけちゃったみたいで、ごめん』
「ばっか。んなの気にすんなって」
相変わらずの落ち着いたトーンの声が、頭に染み渡っていく。少し泣きそうな気分になっているのは間違いなく、恋人不足が原因だ。
「そ、それで? 何の用事なんだよ?」
しかし返ってきたのは息を飲んだような音だった。
『何って……今日は陽介の誕生日だろ?』
「え、あ……」
――期待していなかったわけでは、なかった。けれど遠距離恋愛にあるこの状態で高望みはできないと、敢えて諦めの気持ちでいたのだ。
『もしかして、俺からは何にもないだろうと思ってた?』
尋ねる声は少しの不満さとどこか愉快そうな色を含んでいた。
「あ、いや、だって……簡単に会えるわけでもないし、今日、普通の日だったから……」
『だとしても、俺が忘れるわけないだろ? 離れてたって、こうやって伝えることだけはできるんだから』
確かに、そうだ。悠の性格を考えれば、どうしても無理な状況でない限りはこうして、何らかのかたちにしてくれる。
「ごめん、俺……」
『罰としてちゃんと俺に祝われること』
何だそれ、と思わず苦笑した瞬間だった。
『――誕生日、おめでとう。陽介』
(う、わわわ……)
普段以上に甘く、優しい声が耳に注がれる。悠がどんな表情でいるのか思い描けてしまいそうだ。きっと少しだけ目を細めて、直視できないような視線を発しているのだろう……。
いや、もう、やめよう。これ以上妄想を広げたら頭が爆発してしまう。ここが自室だったら間違いなく身悶えていた。
『陽介、どうかした?』
「いやいや! その、嬉しすぎてだな」
『そう? そんなに喜んでもらえたなら、明日と明後日も頑張れそうかも』
これは早く帰宅せねば。きっと気持ち悪いほどのニヤケ顔が完成されているに違いない。
……ん?
「え? 悠、なんだって?」
『だから、明日と明後日。陽介、前バイトないって言ってただろ?』
「あ、た、確かにないけど」
『うん。だから遊びに行こうよ。たまには思いきり羽目外さないと勉強勉強で嫌になっちゃうだろ?』
ちょっと思考回路がショートしそうだ。いきなり何を。明日と明後日、悠と自分が遊ぶ?
……遊ぶ?
「あ、遊ぶの? 俺と、お前で?」
『そう。朝十時半に沖奈駅に集合で。どう?』
悠の真意は、わからない。普通に考えて誕生日プレゼントということなのだろうが、あくまで予想の域だ。
それでも、この事実だけは断言できる。
悠に会える。恋人と、会える。
「――っわかった、行く! 全然、オッケーだから!」
