実家に帰り着くまでの賑やかな時間は、あっという間に過ぎ去った。与えられた時は皆平等なはずなのに、こういう時は本当に不公平に感じる。
「一気に静かになっちまったな」
新たなと言うべきか、戻ってきたと言うべきか、自分の部屋に辿り着くと一層現実感が増す。
「リュージ達も言ってたけど、結構優しいゴリョウシンだな」
もし少しでも息子を快く思わない態度を取ったら、みんなで世話になった旨を一人一人訴えるつもりでいたらしい。どうしても両親に挨拶をしたいという態度の裏に隠れていた元怪盗団の名に相応しい手口に、笑えばいいのか困ればいいのかわからなかった。
でも、その気持ちはとても嬉しかった。仲間がいる心強さを実感した。
「まあ、母さんも父さんもどうすればいいのかわからなかったんだと思う。息子がいきなり逮捕されたら混乱して当たり前だよ」
「自分は決して間違ったことはしていない」――その信念を貫いて本当によかった。
綺麗に整えられたベッドに腰掛けると、モルガナも隣にやってくる。こちらを見上げる青い双眸が心配しているように見えて、小さく笑った。
「まだしばらくはぎこちないかもだけど、少しずつ元通りにしていくさ。大丈夫、モルガナもいてくれるし」
黒い両耳がぴくぴくと揺れる。
「ワガハイが、オマエの助けに?」
「なるよ。なるに決まってるだろ? 無罪になっても、少年院に入ったとか噂は立ってるかも知れないし。一人きりだったら泣いて枕を濡らしてたかも」
後半ふざけてみせたが、モルガナから返事はなかった。重く受け止めさせてしまったかと、宥めるように背中を撫でる。
「……もし、ワガハイがニンゲンだったら」
「うん?」
膝の上に移動したモルガナは、前足をこちらの手に重ねた。
「オマエの隣に立って、オマエを悪く言うヤツから守ってやるのに。ゴリョウシンにもワガハイがどんなに世話になったか、伝えたかった」
「そんなこと言うなんて、モルガナらしくないぞ」
一人で抱え込むと悪い方向へどんどん行ってしまう性格なのは、去年の九月で十分に学んだ。
「茶化すなよ! ワガハイは真剣に」
「茶化してないって。俺はモルガナがどんな姿でも関係ないし、支えになってるのも変わらない」
尻尾のわずかな揺れは、モルガナの戸惑いを表しているように見えた。
自分がいくら本音をぶつけても、モルガナが納得しない限りは届いてくれない。隣に常にいてくれるだけでなく、本物の猫と違って会話もできるし、時には弱音だって吐ける。誰がなんと言おうと心強い仲間で相棒でもあるのに、伝わらなくてもどかしい。
「わかってるさ。オマエがワガハイを認めてくれてるのはわかってる。嬉しいよ。でも……周りから見たらしょせん猫とニンゲンだし、ワガハイの言葉は他のヤツには届かない。それが悔しいんだ」
なんてもったいない言葉だろう。
モルガナも、他の仲間達も、ただ一人「黒瀬凌一」のために真剣になってくれる。一年前の完全な孤立状態を思い返せば、幸せ以外の何もない。こんな未来を想像すらもできなかった。
「ニャッ!? な、なんだよいきなり抱きつくな!」
「泣きそうになったからごまかした」
「ゴマかすな!」
「……大丈夫。そのうち、嫌ってほどモルガナが支えになってる存在だってわかるようになるから」
モルガナから返事はなかった。
吉田から学んだ演説術をここでも活かしていれば、大団円に変えられただろう。
