「今日もダメとか……あいつ、どんどん忙しくなってねーか!?」
「何だよリュージ、嫉妬か?」
「ちげー! ……く、ないかも。誰かもわからんヤツに嫉妬してんのかなぁ俺」
やれやれと呟く黒猫の頭を乱暴に撫で回してやる。脇腹辺りに猫パンチを食らったが威力は知れたものだったので問題ない。
あれから、凌一と過ごす時間はほぼゼロになってしまった。本人曰く「怪盗活動に活かせそうな技量を持った人を見つけたりしている」らしいが、もしかして相当数に上るのではないか?
「……なあ、モルガナ」
「なんだ?」
ちょうどいい場所にファミレスがあって本当によかった。壁際の席を選べたのも幸運だ。モルガナも大人しく鞄の中に収まってくれているから、ますます猫との会話がバレにくい。
「あいつ、どんだけ知り合い増えてんの?」
『今日買いに行く予定だったコンビニの期間限定商品を、モルガナと買ってきて欲しい』という急な願いを聞き入れた理由の半分が「これ」だ。
自分の見えない場所でどう動いているのか、どういう人間と関わりがあるのか、聞き出すなら一番情報を握っているモルガナ以外に頼れない。
「んー、オマエ達を含めれば十人は越えてるぞ」
「マジかよ!」
「この間はトウゴウヒフミという女と知り合いになってたぜ。将棋の戦略が活かせそうだとか言ってな」
「とうごう……ああ、祐介が言ってたヤツか。すげーな……」
つくづく、リーダーに相応しい器と度胸の持ち主だと感心する。
「俺も一緒についていこうかな」
「やめておけ。人数が少しでも増えるとリスクに繋がるし、リョーイチに任せておいた方がいい」
マジレスかよ、と声にならない突っ込みを返す。
言われなくてもわかっているし、別のポジションで活躍できればいい。テキザイテキショ、というやつだ。
「で、今日はその知り合いになった誰かに会いに行ってるってわけだな」
「まあな。詳しいことはワガハイも知らないぞ?」
モルガナ曰く、敢えて首を突っ込まないようにしているらしい。適度な距離感のある方が互いに動きやすいという意見は確かにわかる。
「しっかし、オマエそこまでリョーイチが好きだったとはな〜」
「ばっ、な、何言ってんだよ!」
反射的にでかい声を出してしまい、辺りの視線を一挙に集めてしまう。しまった、悪い癖が出てしまった。お約束の適当咳払いでごまかす。
「なにカジョー反応してるんだよ……好きなのは間違いないだろ? シンユウってやつなんだろ?」
そうだ、その通りだ。モルガナは何も間違っていない。
……おかしい。本当にどうして、無駄に反応しているんだろう。
「まあでも、前はリュージとばっか遊んでたしな。急にソエンになれば寂しくもなるか」
「疎遠とか縁起でもねーこと言うな! ……でもほんと、前より遊ばなくなっちまったよなぁ」
怪盗団リーダーとしての自覚が増えてきたのか、他の仲間とも積極的にコミュニケーションを取り始めた。それが功を成したのか、個人的な相談事を持ちかけられるまでになっているようだった。かつての自分もその流れで見事解決まで導いてもらっているから、事情がわかってしまうのだ。
「リュージ、泣きそうな顔になってるぞ」
指摘されて、けれどごまかす気力も湧かなかった。捨てられた動物というのはきっと、こんな気持ちなのかも知れない。……いやいや、どこまで落ち込めば気が済むんだ。今日はもうさっさと寝てしまおう。寝れば治るかも知れない。むしろ治って欲しい。
「いつにも増してゼッフチョーだな……そろそろ帰るか? リョーイチももうすぐ戻る時間だろうし」
素直に従うことにした。四軒茶屋にあるルブラン前までモルガナを送り、どこか重い足取りで駅へ向かう。
「っ、りっ、凌一!?」
曲がり角にさしかかったところで見覚えのある黒髪が目に飛び込んで、声を上げた。相手も予想外だったようで無駄に瞬きを繰り返している。
「ここに一人で来るとか珍しいな」
「いや、モルガナを送ってきたんだよ」
「なるほど」
ついさっきまで話題の中心だった人物がいきなり目の前に現れたから、うまく会話が続けられない。凌一もどこか不思議そうに見つめている。
何か、なんでもいいから言わなければ。
「あ、っと、その、今日はここに用事があったのか?」
「ああ、まあ、ね。必要な買い物してた」
パレスやメメントスを探索するたび、道具や装備が補充されたり新調されているのを思い出す。今頃だが、そういう雑用もリーダーに任せきりだった。
「買い物くらいだったら、俺も付き合うぜ? 荷物持ちも必要だろ?」
「うん、ありがとう。そうだな、今度必要な時があったらそうするよ」
柔らかく凌一は笑うが、「その時」が来ない気がするのは……気のせいだろうか。
距離を詰めて、改めて凌一を見つめる。いきなりの行動に驚いたのか、レンズの奥で戸惑いに揺れた瞳がこちらを捉えている。
「絶対だぞ」
答えを聞かないままその場を去った。否定されるのが怖くて聞けなかったと思うと、情けなくてどうしようもなかった。
(どうして、俺は)
こんなに必死になっているんだろう。
こんなに、何が何でもアイツの隣に立っていたいと願っているんだろう。
親友って、依存みたいな気持ちが生まれるものなんだろうか。
わからない。
わからなくて、ひどくイライラする。
