二人でとことん、甘く楽しんで

 冬にしかできないスポーツはいろいろある。その中でも比較的気軽に手を出しやすいのはスケートだ。
 そんなわけで、どこか乗り気でなかった智友を引き連れて、最近話題だというスケートリンク場にやってきた。学園からバスと電車を乗り継いで来た甲斐があったと思うくらい中はかなり広大で、休日ということもあり、結構な賑わいを見せている。触発されてテンションも上がっていくが、隣の恋人はとことん正反対だった。
「勇気〜、何でわざわざここをデート場所に選んだんだよ〜」
「文句言うなって! 大体、どこでもいいって言ったのはトモだろ?」
「俺は部屋でのんびり過ごしたかったのに……」
「まあまあ。あんまり引きこもってばかりもよくないぞ」
 陸上部の練習に理事長の仕事にと、ここ一ヶ月ほど忙しさの増してきた智友は「癒やされたい」が口癖になっていた。自分も夜は一緒に寝て欲しいという願いを叶えたり、サボりも多めに見逃したりと、できる範囲で智友を労ってあげていたのだが、たまには思いきり外で遊ぶのもストレス発散になるし、二人で遊ぶ自体が久しぶりだったし、よかれと思って誘った。
 まあ、前から気になっていたというのもあるにはあるのだが。
「俺、スケートやったことないんだよね。トモは?」
「俺も初めてやるよ。コケたら大惨事になりそうでゾッとするわ……」
 文句は続けながらも、スケート靴の紐をしっかり結んでいる。智友は身体を動かすのが好きな方だし、実際運動神経もいいから、初めてでもそのうち慣れて楽しく滑ってもらえるはずと踏んでいる。
 もちろん、自分だって負けない。智友と二人でリンクを軽やかに滑りたい。
「よーし、滑るぞー!」
 
 
 スケートは、思った以上に難しかった。
 初心者ということで、最初にインストラクターの手ほどきを軽く受けてからいざ滑り出してみたものの……。
 うまくバランスが取れない、歩くように足を動かしてもすぐつっかかってしまう、偶然滑れてもなかなか止まれず端に激突しそうになるという散々な結果が続いている。
 リンク端で手すりに掴まったまま動けない自分に引き換え、智友はと言うと。
「お前、ほんとに初心者? なんでそんな余裕なんだよ!」
「初心者だよ。慣れると結構楽しいなーコレ。気持ちいい」
 最初の愚痴だらけだったのが嘘のように、にこにこしながら華麗に氷の上を滑っている。客が多めなのも何のそのな状態なのが納得いかない。
「お前だって少しずつ滑れるようになってるだろ? ほら、手ぇ貸してやるから」
 目の前で普通に止まると、微笑を浮かべながらこちらに手を差し伸べてくる。その様が無駄に格好よくて、照れ隠しに頬を膨らませる。
「なんだよ、その顔。可愛いだけだぞ」
「かっ、可愛いとか言うなよ! ばかっ」
 同い年なのに、そうとは思えないくらい振り回されて悔しい。最終的に格好いい智友に心身を持っていかれてしまうから、その悔しさが実は小さじ一杯程度なことに我ながらつくづく呆れてしまう。
 縋り付くように、智友の手を握り返す。支えにしながら教えられたフォームで慎重に足を進めていく。
「そうそう、調子いいぞ」
「ほ、んと、っわ!」
 片足のバランスが崩れ、とっさに智友の服を強く掴んでしまう。そのまま共倒れになってしまうかも、という焦りは間近に迫った顔に打ち消された。
「焦ったー。大丈夫か?」
「う、うん。ありがと、トモ」
 腰に回った腕が抱きとめてくれたらしい。少し身じろいだくらいではびくともしなさそうな力強さに頬が熱くなる。
「どうした、勇気?」
 こちらを気遣い混じりに見つめる瞳はどこまでも優しい。
 こうして付き合うようになってからの智友は、本当に変わったと思う。
 大勢と絡んでいる時はそうでもないが、二人きりになるとやたら触れたがるだけでなく、明らかな甘さを含んだ低音声を駆使して赤面ものの台詞を積極的に放ってくるし、情事を重ねるたびに妙な色気も増している気がする。
 同じ十六歳なのに、この差は一体……。そんな智友も大好きだから、いいのだけど。
「なあ、そんなに見つめてくれるのは嬉しいんだけど、さ」
 苦笑した智友の台詞に、我に返る。公共の場で抱き合って見つめ合って、恥ずかしすぎる!
「ごっ、ごごごめん!」
 慌てて離れようとするが、なぜか叶わない。こちらを捉える智友の両手がそれを阻止していると気づいて、睨みつける。
「トモ! は、離れろって」
「んー? お前が離れたくないから、じっと俺を見つめてたんじゃないの?」
「ち、違うよ!」
「じゃあ、なんで見つめてたんだよ?」
 問い詰める智友はとても楽しそうで、追い詰められているこっちが馬鹿らしく思えてしまう。簡単に流されてやるもんかと意気込んでいても、結局自ら白旗を挙げてしまう。
「……かっこ、いいから」
「よく聞こえなかったんだけど?」
「っかっこ、いいからだってば! もう離してよバカ!」
 両手を前に突き出して、前方にずんずんと進んでいく。ここがスケートリンク上であることを忘れていたが、こういう時に限って調子よく滑れてしまうものだったりする。
「落ち着けって勇気。また転ぶぞ?」
 それでも、やはり智友には負けてしまう。後ろから抱きしめられたような格好を保ちつつ、亀のようなスピードで氷上を移動していた。
「なんだよ、この滑り方……俺、結構足プルプルしてんだけど」
「だーいじょうぶだって。俺が完璧にコントロールしてやるから。一緒にスケート楽しめるし、お前にくっついていられるし、一石二鳥だろ?」
 右耳がくすぐったい。絶対陰で変に噂されているんだろうな、と考えると恥ずかしくてたまらない。学園のように見知った顔がないだけましだと何度も言い聞かせて、暴れそうになる気持ちを抑える。
「どうだ? コツ、掴めそうか?」
「こんなんで掴めたら、ある意味天才だよ……」
 小さな笑い声を零し続ける智友は本当に楽しそうで、この状態も仕方なしに受け入れてしまう。なんだかんだで恋人に甘くなってしまう自分も、だいぶ毒されているのだろう。
 もっと、こうして友人のように笑い合って、恋人同士に相応しい甘い時間も過ごしていきたい。二人でならいろんなものをより楽しめるはずだから。
 
 
「なあ、日中はこうやってお前の行きたいところに付き合ってやっただろ?」
「うん?」
「だから、夜は俺の番な」
「それ、って……」
「そ。俺の部屋で、俺の気がすむまで付き合ってもらうから。エネルギーたっぷり補給しとけよ?」

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