トップモデルになると決めてから、撮影現場には凌一も「雑用係」という表向きの肩書で同行してもらっていた。事務所にはかなり無理を押し通してしまったが、後悔はしていない。
道を示してくれた恋人に、自分がどれだけ成長できているかを見ていて欲しい。示したい。
いずれは卒業しなければならないと理解はしているけれど……もう少しだけ、甘えていたかった。
「凌一!」
撮影が終わり、現場のスタッフに挨拶も済ませてすぐに駆け寄る。邪魔にならないようにとスタジオで佇む彼は、誰よりも眩しく見える。
「お疲れ様、杏。今日も可愛くて素敵だった」
「……もう、本当に口がうまいんだから」
微笑みながら軽く頭を撫でられて、胸が暖かくなる。この瞬間が、本当にたまらない。
「ね、お腹空いたでしょ? 休憩がてら、どっか食べに行こうよ」
「ああ。……ところで、さ」
こちらを見下ろす凌一は困ったように眉を下げている。
「眼鏡、やっぱ外してないとダメ?」
「だーめ。こういう時くらい外しててもいいでしょ?」
眼鏡をつけている理由はわかっているけど、もったいないもの。
凌一は、祐介とは違ったタイプの美形だった。普通に転校してきたら、数日も経たないうちにこっそりファンクラブもできていただろう。その中から勇気のある女子が何人か現れて告白に乗り出し、さらには先生もいつの間にか彼の虜に……。
「……杏。顔、コワくなってる」
我に返る。とんでもない妄想をしてしまった。魔性の男な彼氏だから仕方ない。
「と、とにかく! 私と一緒の時は外してて。ね? お願い!」
本当は抱きつきながら上目遣いで告げたかったが、両手を打ち合わせて頭を下げる。なんだかんだで優しい恋人は、とりあえず納得してくれた。
――眼鏡なしのいろんな表情を見たいから、なんていうのが本当の理由なんて、きっとあなたは呆れちゃうね。
でもこのわがままが、まさかあんな形で返ってくるなんて。
