ファーストキスのキラキラは客観的視点 - 1/2

『おい、おイナリ』
 双葉からそんなメッセージを受け取ったのは、デッサンの小休止をじゃがりこと共に味わっていた時だった。
『なんだ』
 おイナリと呼ばれるのもすっかり慣れた。人は仲良くなるとあだ名をつけることもあると学んだ今としては、センスはアレでもちょっぴり嬉しかったりする。
『綺麗なキスをする恋人の絵をくれ。参考にしたい』
 ……上がったテンションが、元に戻った。
『こら、どうした。寝オチでもしたか?』
 夜とはいえ、今やり取りをしているのにそんなわけがあるか。
『オチてなどいない。お前があまりにも頓狂なことを言うからだ』
『誰がトンキョーか! わたしは真剣なんだっ』
 恋人にキスということは、仲間の黒瀬凌一がらみの案件と見た。
 凌一と双葉が恋人同士だという告白を受けた時は驚いたが、今は仲間と同様、温かい気持ちで見守っている。
 だとしても、恋愛事に関しては完全に畑違いだし、綺麗なキスとやらは想像すらつかない。
『そういうことは俺ではなく杏達に訊けばいいだろう』
『……もう、訊いた』
 困惑した顔が透けて見える。
『でも、そんなの気にしなくて大丈夫とか、凌一がうまくリードしてくれるよとか、いまいちピンと来ないものばっかりだった』
『なら、得意のネットでそれらしいものを検索してみたらどうなんだ?』
『それもやったけど、見つからなかったの!』
 苛立っているようだが、理不尽にも程がある。
『なら、なんで俺なんだ! ますます理解不能だ!』
『お前綺麗なの好きだろ! 綺麗担当だろ! 漫画もないからおイナリが頼りなんだよ!』
 いつも以上に脈絡がない。反論を打ちかけた指をはたと止める。
 デートに備えたい、という動機くらいは読めるが、だからといってここまで落ち着きがなくなるものだろうか。恋人にとっておそらく最重要な出来事について、なりふり構わず情報を得ようとするものだろうか。
『もしかして、明日会うのか?』
 気づいたが、明日は休日だった。完璧なこのタイミングならば、双葉の様子にも納得がいく。
『……お前、エスパーか?』
 見事に的中した。
『なら、杏達の言うように凌一に任せるしかないさ。俺は確かに綺麗で美しいものは好きだが、そういうものが絡むとからきしだぞ』
『そ、そうかも知れないけど』
『なら、俺から凌一に一言言おうか? 双葉をよろしく頼むと。そうすれば綺麗なキスとやらを演出してくれるだろう』
『ばっ、だからお前は馬鹿で変態でデリカシーがないんだ!』
 不躾な形容を叩きつけたきり、双葉からのメッセージは途絶えた。あのままでは平行線が続くだけと見越して敢えて不適切な内容を返してみたが、まさか三連続攻撃で畳み掛けてくるとは思わなかった。
 悶々とした感情を振り切るように画面の照明をオフにして、再びキャンバスに向かう。綺麗なキスなんて本当にあるのだろうかと追求してみたい気にはなったが、目前の課題を無視はできなかった。