「これは、君の救助依頼のレシート」
「うわっ、それまだ持ってたんだ」
「これが、俺の怪我を目ざとく見つけた君がくれたバンドエイドの残り」
「……仮面ヤイバーのやつなんか、あげてたっけオレ。ごめん、全然覚えてない」
「……このキーホルダー、子どもらしいチャーミングなチョイスだよね」
「それ、確か……あ、元太たちと出かけた時に買ったおみやげ、だった。うん」
「……これは、なんだかわかるかい?」
「それはわかるよ! オレが初めて零さんにプレゼントしたネクタイピンだろ」
「恋人になってから、が抜けてるけど?」
照れ屋な新一に敢えて突っ込むと、唇を「へ」の字にして声を詰まらせた。そんな彼も当然可愛いけれど、今は少しだけ悲しい。
「なんだか、新一君からの愛情が薄い気がする……」
せっかくの休日になにをやっているんだか、と呆れる気持ちもある。それでも、思い出の記憶力にここまで差があると複雑にもなるし、自分だけが必死みたいで格好悪い。
「なに大人げないこと言ってんだよ……大体、薄かったらこうやって一緒に住んだりしてないし」
大げさに肩口に寄りかかってくる。恋人になりたての頃と比べて新一からスキンシップを取ってくれることが本当に増えたが、今は物足りない。愛情が足りない。
「ほんと、新一君って無駄にクールだよね。独占欲強いくせに」
この際だから、もっと大人げないことを連ねてやろう。
「俺がプレゼントした品々、ちゃんと使ってくれてる?」
「使ってるし、大事にしまってもあるよ」
「そういえば新一君からキスしてもらったことってあんまりないなぁ」
「は、恥ずかしいんだよ! どうせ零さんみたいに経験値豊富じゃねえよ!」
「そんなの関係ないのになー。恋人からしてくれる、っていうのが大事なんだけど」
反論が途切れた。こっそり隣を盗み見ると、呆れと苛立ちが混じった表情を向けられていた。しまった、さすがに調子に乗りすぎたか。
「零さんにそこまでオレの気持ち信じてもらえてなかったなんてなー心外だなー」
背中を向けられてしまった。口調からして演技かもしれないが、読みを外す時もあったりするから油断はできない。
「そりゃあ、告白してくれたのは零さんからだったし? 一緒に住もうって提案してくれたのも零さんだったし。オレだって同じ気持ちだったけど受け入れてもらえなかったらどうしようとか仕事に支障が出たらいやだなとかいろいろ考えてたんだって言っても単なる言い訳にしか思われないんだろーなー」
内心で首を振る。特に同棲の提案をした時の、嬉しさと遠慮が同居した新一を見ただけで充分その気持ちは伝わっていた。公安という特異な仕事に深く理解を示してくれていたことがたまらなく愛おしかったと告げたら、どんな顔をするだろう。
「こんなことなら赤井さんのところに行けばよかったかな、なーんて」
自分でもはっきりわかるほど、空気を固めてしまった。だが、それは反則だ。質が悪い。
視線だけを寄越した新一は改めて向き直ると、頬に向かって右手を伸ばした。てっきり触れるだけだと思いきや、軽く引っ張られる。
「辛気臭い顔するなよ。オレもごめんだけど」
告白する前の一番の懸念を思い出してしまった。
眩しくて目を背けたくなるほど、新一と赤井の信頼感は確固なものだった。湧き上がる羨望を何度投げ捨てたかわからない。
かなわないと、心のどこかで白旗をあげていた。けれど、取られるのもいやだった。
告白するまで同じ道を幾度も逡巡して、結局は己の欲に勝てなかったのだが……もし赤井が先手を取っていたらと思うと、こわくなる。
「……あのさ、嘘だからな。本当に。赤井さんからも何も言われてないし」
無言に焦ったのか、新一の眉尻がすっかり下がっていた。大丈夫だと返したいところだが、長年染みついたあの男への憎しみは心の底に未だ残り、時にかさぶたを剥がそうと爪を立てる。
口にするべき言葉を選んでいると、一瞬目を伏せた新一がぐっと顔を寄せて、唇を塞いだ。
「オレ、こういうことするのは零さんとじゃないと嫌なんだからな」
いきなり、破壊力抜群な爆弾を投げつけられたような気分だった。
「赤井さんはオレにとって大事な人だよ。大事な人だけど、恋人になりたいわけじゃない。恋人になりたかったのは、もっと大事な人なのは、あんただけだ」
同じ青の瞳を持っているのに、汚れを知らない透き通った色は美しく、まっすぐに感情を伝えてくる。
新一の気持ちを疑ったことなんてない。気まぐれに顔を出した自分の弱さが、彼に無駄な言い訳をさせてしまった。
「……俺だって、同じだよ。君自身が、俺の一番の宝物だよ」
そう返して、抱きしめ返すだけでも足りないのに、身体がうまく動かない。
本当に新一にはかなわない。ここまで一喜一憂させてくる人間は、彼以外にいない。
もう少ししたら、横抱きにしてベッドに連れて行ってやる。やめてと懇願しても絶対やめてなどやらない。
背中に回されたぬくもりにまた満たされながら、さらに力を込めた。
