「おーい、れいさーん」
ここに来てこんな状態になってから十回は呼びかけているが、変化はない。諦めて、ぬいぐるみ気分を味わい続けることにした。多分先日のサイバーテロ事件がらみだろう。
「つらかったんだよ」
ようやく、くぐもった声が聞こえた。とんでもないスピードで地面に垂直落下しそうなほど、その響きは重い。
「君と敵か味方かわからない状態を続けてるあの時が、本当につらかったんだ……!」
やっぱり、そんな理由だと思った。だがここでため息のひとつでも漏らしたらきっと、さらに傷を増やしてしまう。無駄な怪我は避けよう。
「盗聴もしたくなかったんだよ、毛利さんたちも巻き込みたくなかった……でも」
「それだけせっぱ詰まった状況だったんでしょ?」
こちらを見つめてきた降谷はとても部下には見せられない顔をしていた。風見あたりが目にしたら、新しい人物に成り代わっているんじゃないかと信じそうだ。
「君との関係とか、愛情とか、そういうのを一切殺す必要があったんだ。事件の全貌が見えるまで『公安の降谷零』であり続けないといけなかったんだよ」
腫れ物に触れるように、あるいはいとおしむように、両手で頬をなぞり包み込んでくる。
「でも、君に疑われてる時は一番堪えたなぁ……すぐにでも本当のことを話して、抱きしめて、キスしたくなったよ」
「そんなことしたら、本当に嫌いになってたよ」
さすがに嘘だろうと見込んで返したら、元々のタレ目がさらに垂れ下がった。え、まさか本心?
ぐりぐりと押しつけられる頭を一生懸命撫でてやる。メンタルがだいぶナイーブになっているようだ。
「っていうか、あれは敢えてだよ零さん」
「……どういうことだい」
「ああして懐疑心を向けたら、もっとやる気出してくれるかもって思ったんだ」
呆然とした顔を向けられた。高校生でも、彼からすれば子どもに変わりはない。とんでもない上から目線ととられてもおかしくないから、黙っているつもりだった。
「オレの知ってる降谷零は、とっても頼りになる人だから、さ」
自分としては、そんなつもりはない。
ただひたすらに、恋人を信じていたから。
降谷を見つめる瞳に、ありったけの愛を込める。
「……新一くんさあ、急にかっこよくなるのやめてよ!」
いきなりキスされてしまった。まるで子ども同士のじゃれ合いみたいな、かわいいと思ってしまうようなそれに、つい笑いがこぼれてしまう。
「決めた。今日は君を帰さないよ。ずっと僕に抱かれていてもらう」
ベッドにそっと押し倒された。予想していなかったわけじゃないが、まさかこんな日中から?
「いろんな『抱っこ』してあげるから、楽しみにしててね」
……いろんな意味で、今日は長くなりそうだ。
