「過度な独占はみっともないぞ、笠原」
依頼していた仕事の結果を報告に来た榊は、いつもの不敵な笑みを湛えてそう付け加えた。
「……いきなりなんですか」
「朝比奈に少しでも頼りにされないと悔しくてたまらないか?」
思わぬ指摘に、思わず榊を睨みつけてしまう。だが特に気に留めた様子はないどころか、機嫌よさそうに唇をさらに持ち上げてみせた。
「ていうか、なんで先生がそんなこと知ってるんですか」
「……朝比奈を責めるなよ? 数学の質問に来た時にやけにこそこそしてるから理由を訊いたら、お前に見つかったら気にされるかも知れないと言っててな」
多分、榊の追求から逃げ切れずそれ以上の内容も伝えてしまったのだと思う。榊は自分達の関係を知る人間だし、下手に誤魔化しても意味はない。
榊の言うことを実行するつもりはないし仕方ないと諦めるしかないのもわかるが、ジョーカー並にやっかいな人間に種明かしをしてしまった。
「……授業でわからないことがあったら先生に質問するのは、別に、普通のことですし」
「でも、数学ならお前も得意だしな」
完全に遊ばれている。表情を見られたくなくて咄嗟に背中を向けてしまった。そういえば用事はもう済んだし、無理やり追い出しても怒られはしないだろう。
「お前、朝比奈と付き合うようになってからずいぶん表情豊かになったな」
「っ、いい加減に」
「尚央もお前に楽しく学園生活を送って欲しいと願っているだろうし、いいんじゃないか?」
兄の名前を出されて、思わず振り向いてしまった。先ほどとは一変して、榊の表情はどこか柔和だ。
確かに勇気と再会してから、一喜一憂の回数がぐんと増えたように思う。どこか危なっかしい恋人だから、目が離せなくて傍にいないとどこか落ち着かない。
「ま、朝比奈のこともちゃんと信じてやれ。あいつはどんなことがあっても、お前を見捨てやしない。這ってでもお前についていくだろうさ」
「……そんなこと、言われなくてもわかってますよ」
言われっぱなしなのは気に食わなくて反論してみるが、何もかもを見通したかのような目線をもらっただけだった。
――もっと強くならないといけないのはわかっている。
それでもまだ、大切な人に素直に甘えていたい。心の許せるたったひとりの人に愛を注いで、注ぎ返して、そんな時間を過ごしたい。
ほんの少しの間も、惜しいんだ。
榊が去ってからすぐ、ポケットにあるスマートフォンに手を伸ばした。
