「……場所、修学旅行で行ったホテルがよかったかもな」
すでに半分働いていない頭に、悠の言葉がぼんやり染み渡る。
こちらを一瞥した悠は意地悪く笑った。
「ラブホだもんな、あそこ。どうしたって、そういう雰囲気作れるだろうし」
ようやく合点がいった。突っ込みをいれかけて、息を飲む。
「っあ、あ」
胸の飾りを口に含まれた。舌で丁寧に舐め回されて何度も身体が微動してしまう。
さらに悠はしつこいくらいにそこを攻め立てる。すっかり弱点のひとつとなってしまったのに、すぐに我を失いそうだ。
「ゆ、う……! も、やめ、そこ」
「だって、陽介はチョコの代わりなんだろ? もらった俺はちゃんと、綺麗に食べなくちゃ」
歯の浮きそうな台詞を余裕の表情で並べ立てると、再び口内で転がし始める。
「……っああ!」
片方を軽く噛まれ、もう片方を指で摘ままれた。一際大きな悲鳴が飛び出して慌てて唇を引き結ぶも、防げない。腕を押し付けてようやく抑えられたほどだった。
けれど悠は行為を全く緩めてくれない。男でもこんなに感じるものなのか、それとも悠の技術がずば抜けているだけなのか。
未だ服に覆われたままの悠の腕を掴む。口がうまく回らない代わりにまっすぐ視線を送った。
「どうした? やめて欲しいのか?」
こくこくと首を縦に振る。
「そうか。なら、別の場所にするよ」
――どういうことだ?
言葉の意味を理解する暇は、なかった。
身体の中心から、痺れるような刺激が生まれた。捩れようとする身体を押さえつけて、悠の手はその箇所を布越しに撫で続ける。
いやだ、だめだ。今の状態で、その場所を弄られるのは、だめだ。
直に触れられているのとはまた違う。たまらず唇を噛みしめて、手のひらで顔全体を覆った。
「こら、そうやって顔を隠すのはなしだぞ。声を抑えるのもダメだ。こういう時の陽介すごく可愛いのに、もったいない」
「っか、かわいいとか、どの口がっ……ああっ!」
「可愛いよ。陽介は、可愛い」
先端を強く擦られた。甲高い、まるで女のような悲鳴が互いの間に響く。
こんなの俺じゃない。恥ずかしい。なのに止められない。たまらない。悠に触れられているからなおさら、たまらない。
制服も下着も濡れているのが嫌でもわかる。悠が小さな笑いを零したような気がして、心臓がずくりと音を立てた。
もどかしい感触ながらも快感の波が絶え間なく押し寄せる。意識が簡単に攫われてしまいそうになり、すんでのところで押し留まる――そんな状態が続く。
「……苦しそうだな」
「くる、しい。もう、おねがい、だ……」
みっともない姿とわかっていても、構わなかった。この苦しみから早く解放して欲しい。
「でも、もう少し我慢してくれ」
とんでもないことを言われたような気がしたのは、間違っていなかった。
「っひ……!」
思わず喉を仰け反らせた。
生温かい感触が伝わってくる。先端をざらりとした感触が駆け抜けて、シーツをかたく握りしめた。
頭の中が、腹の辺りがひどくぐるぐるする。気持ち悪い。でもたまらなく気持ちいい。
「……ん、気持ち、よさそうでよかった」
固くそそり立つモノから一旦口を離し、満足げに相棒が告げる。唇の端から透明の雫が流れ出ている様が酷く淫乱で、美しささえ覚えた。こんな時でもなお、彼の容貌に翳りはない。
「たのむ、も、むり……!」
再び口に含もうとする悠の髪を掴んで止める。
「イカせて欲しい? 陽介」
必死に頷く。
「……わかったよ。素敵なプレゼントをしてくれたお礼、な」
――瞬間、目の前に火花が散った。
生温かいぬくもりが再び自身を包む。悠の頭が上下するたびに下半身を重い痺れが走る。更なる刺激を、快感を求めようと腰が微動するのを止められない。
「んあ、はあ、あ……!」
女のような声だと羞恥に浸る暇はとうになかった。むしろ表に出し続けなければ耐えられないほど、悠が与えてくるものは大きかった。
唾液と先走りの液が混じり合う濡れた音が容赦なく耳を犯していく。根元から先端までを舌や手で丁寧に撫ぜられ、吸われる。本当に悠に食べられているのではないかと錯覚しそうだ。
「あ、んあああっ……!」
頭の中が完全に真っ白になった。掴んだままだった悠の頭を強く押し付ける。
その行為が悠にとって不愉快極まりないだろうと我に返った時には、吐き出したものは彼の喉を通過していた。
「ごちそうさま」
ぐい、と口元を拭う悠にゆるゆると首を振る。
「な、んで、飲んじまうんだよ、それ……!」
「当たり前だろ? これは……そうだな、俺にとってはデザートその二みたいなものだし」
「そ、その二? つか、で、デザートって」
言っていることが完璧に親父だ。大体あんなものがスイーツ代わりなんて、想像するだけで具合が悪くなる。
「もちろんメインは……な?」
至近距離で微笑まれ、そのまま深く口付けられる。自身の味が伝染する不快感はわずかな時間しか続かなかった。
「ふ、ううぅっ……!」
激しい異物感を覚えた。思わず逃げ腰になるも、キスのせいで叶わない。
「大丈夫……すぐ、慣れるから」
頭を優しく撫でられて、少し力が抜けた。この時の悠はいつも無理強いせずにゆっくりと慣らしてくれる。できるだけの負担を排してくれる。
時折舌で濡らしつつ、指を少しずつ押し進めていく。その指の本数が増える頃には唾液の必要もないくらいに解け、ぐちゅぐちゅとした音を立てていた。不快感もすでになく、物足りないと、さらなる刺激を代わりに切望するようになっていた。
「も、いい、悠……はや、く」
「……ふふ。そんなに、ほしい?」
頬に指が触れる。親指が緩く、唇をなぞる。
「ほしい、いますぐお前が、ほしい」
指に軽く歯を立てる。これ以上焦らさないで欲しい。お願いだから、意地悪はしないでくれ。
「陽介、その顔。全然自覚ないだろ?」
「……え?」
「本当に食べられてもおかしくない顔、してる」
だってもう、我慢できないんだ。さっき吐き出した熱がまた暴れて仕方ない。
それに早く……早く、繋がり合いたい。お前に抱かれるのは、口に出して言えないけれど、好きなんだ。
たまらず身を起こして、悠の制服のスボンを脱がした。動揺する様には構わず、すでに上を向いている悠のモノを掴む。懸命に上下に動かした。
こちらを制する声は完全に形だけだった。短い吐息を零し、わずかながら腰も揺れている。こんな愛撫でも確かに感じてくれているのがわかり、つい嬉しくなる。
「早くしないと……これで、イカせちまうぞ」
挑発的に笑みを作ってみせたのが効いたのか。
立ち位置はあっという間に逆転した。
「全く、ずいぶん自分勝手なプレゼントだ……俺の言うこと、素直に聞いてくれると思ってたのに」
ペルソナ能力に目覚めた時と似た、美しささえ覚える笑顔が目の前にある。
背筋を、寒気に似た感触が走り抜ける。
男の本能をはっきりと突き付けられた瞬間だ。
「へ、へっ。少しくらいこういう要素があった方が、楽しめるだろ?」
「さすが陽介だな。じゃあ……存分に楽しんで、味わわせてもらうことに、しようか」
上着をすべて取り去ると、足をぐいと広げてきた。かたくなったままの自身も、ひくひくとした動きが伝わってくる秘孔も、悠を切望している証だ。それらすべてを大胆に晒されて酷くいたたまれない。
新たな熱が、押し付けられる。
「力、抜いて」
同じ男の欲を受け止める行為はどうしても慣れないけれど、相手が悠だから耐えられる。「大丈夫」と言える。
「っ! あああ、ああぁ……っ!」
全部入ったと安堵した瞬間だった。
我慢できないとばかりに、悠が動き始めた。本当に余裕がないのか、動きに全く遠慮がない。残り少ない理性が完全に吹き飛んでしまいそうだ。
「まっ、ゆ、だ、めだ、はげっ……!」
途切れ途切れの言葉でも、悠の中ではきちんと形になったらしい。力なく首を振った。
「……ごめん、無理だ。お前の中、気持ちよすぎてたまらない。 止まら、ないんだ」
表情はあまり変わらない、けれど瞳の奥をのぞけばわかる。伝わってくる。
あまりにも素直な悠の姿に思わず唇が緩んでしまった。こういった不意打ちにはとことん弱いのだ。
「は、はっ……これも、バレンタイン効果だったり、してな」
恥ずかしいが、やはり無意識に浮かれていたのかも知れない。
「それなら毎月でもこういうの、やりたいな。こんな陽介なら、大歓迎だ」
「ばっ、バカかお前! そ、れよりもほら、早く……う、動けよ」
「気持ちよすぎてたまらない」のは自分も同じだ。証拠に下半身にわずかな力を入れ、軽く上下に揺らしてみせる。
明らかに表情を歪めながらも無理矢理強気な笑みを作ってみせる悠がたまらない。
「本当に珍しいな、陽介。 そんなに煽って、どうなっても知らないぞ」
「俺は今日は、お前のチョコ代わりだ。……わかるよな?」
悠からのキスが、返答だった。
無遠慮に舌が口内を巡る。歯を、唇を、愛撫していく。
そのまま、律動が再開された。
「ふ、ううっ……! ぅ、んああ、は、あああぁ!」
苦しさで顔を背けると、一層に高まった声が漏れた。内心驚愕するも、止まらない。麻薬のように全身を包む甘い感情に逆らえない。どんどん深みに嵌っていく。
――悠も、同じみたいだ。
一心不乱に自分を求めている。眉間に皺を作り、艶を帯びた荒い呼吸を繰り返しながら欲の塊をぶつけてくる。己の感情に忠実にただ、動いているだけ。
ここにいるのは、自分しか知らない彼だ。容姿に相応しく大人な性格かと思えば天然で子供のような一面も見せる、ミステリアスな雰囲気をまとった普段の「鳴上悠」ではない特別な彼が、目の前にいる。
恋人の特権とは、こういうことを言うのだろう。
「っよう、すけっ……! 締めつけるな……!」
――ごめん、相棒。気持ちにブレーキが効かないんだ。
内を突き抜ける想いに押されるままに表情を形作る。
「だいすき、だ。くやしいけど、お前のこと……本当に、すきだ」
こんな時くらいしか素直になれないから、懸命に心からの言葉を綴る。
悠が目を見開いて、完全に固まってしまった。本当に今日は珍しい姿をことごとく晒してくれる。
「……だから、そういうのやめろって、 言ってるのに。本当に手加減、できなくなるぞ」
「ははっ……すでに手加減なんてしてないと、思ってたのに」
何だかんだで悠は優しい。それは大好きな部分のひとつだけれど、こんな時ぐらいはしまっておいても構わないのに。
「ほんと、肝心なところでバカだな、お前は……俺はチョコだって、言ってんじゃんか。我慢なんか、しなくていいんだよ」
しばらく呆然とこちらを見つめていた悠の唇が、綺麗な三日月になった。心の底から喜びを感じてくれているのが伝わってきて、胸の内があたたかくなる。
ありがとう。そう耳元に囁きを落として、悠は三度律動を再開した。
