師匠はすべておみとおし - 1/3

「おーい、軍師さんよ」
「なあって。聞こえてないの?」
 ああ、今日も呂蒙殿は魯粛殿と楽しそうに談笑しておられる……。あんなに柔らかい表情の呂蒙殿は見たことありません……。
「だめだこりゃ。完全に呂蒙さんのことで頭がいっぱいになってるよ」
「もうすぐ俺と資材集めの時間なのによぉ……しゃーねえ、凌統。お前来てくれよ」
「はぁ!? なんでそこで俺なわけ。丁奉殿でも連れていけばいいじゃん」
「あいつは今戦場にいんの! 護衛頼まれたんだってさ。いいじゃねえか別に」
 呂蒙殿はとても生真面目で向上心の絶えないお方。故にああして魯粛殿とご一緒の時間が増えるのもわかります、わかるんです。
 ついでに言えば、みっともない単なる嫉妬だと把握しています。これほどのことで心乱されるなど、呂蒙殿の後継者として失格だとも。
 でも、でも!
「甘寧殿、行きましょう」
「って聞こえてたのかよ! だったら返事くらいしろや!」
「もうあんなお二人、見ていられません……!」
「てめっ、勝手に行くなってーの!」
 馬鹿っ、呂蒙殿の馬鹿っ!
 

「……っくく」
「? いかがなされた、魯粛殿」
「お前が目をかけているという陸遜……確かになかなか面白い奴だと再認識しただけだ」
 どうにも嫌な予感がよぎる。魯粛の不敵な笑みと目線の方向がその証拠だ。
 陸遜……何か余計なことでもやらかしたのか?
「は、はあ……まあ、私は自分以上の器の持ち主だと思っております。天賦の才がありますから」
「しかしまだ若いな。己の情を制御しきれていない」
 瞬間、確信に変わった。魯粛に「この」内情は告げていない。おいそれと口にはできない。
「お前達、ただの師弟関係ではないだろう」
 ああ、やっぱり。
 師に真正面から断言されれば、うまい回避の言葉など思いつくはずもなく。
「はっは、お前もまだまだのようだな」
「……精進します。しかし、魯粛殿。このことはどうかご内密に」
 知られているのが親しい甘寧と凌統という事実だけでも心臓が痛いのだ、これ以上の漏洩は御免被りたい。
「わかっているさ。だが、陸遜のあの様子では周りに知れるのも時間の問題だぞ?」
 恐る恐る目線をずらすと、遠くからでもわかるほど恨めしい視線を投げつけている恋人の姿が、あった。
 ……言われてみれば、己の目的に固執して、すっかり陸遜自身をないがしろにしていた。
「陸遜に格好つけたいが為に懸命に学ぶのも悪くはないがな。恋人は適度に構ってやらんと最悪の結果になるぞ」
「……っ、わかって、おります」
 一言も反論できなかった。
 これだ。これだから魯粛には敵わないのだ。