これでも深刻なんです

「……はぁ」
 ある、晴れた日のこと。
 諸葛亮に呼び出されていた馬岱は偶然、深い溜息をつきながら歩いている夏侯覇と出会いました。
「あれ、夏侯覇殿どうしたの〜? 元気ないねぇ」
「ああ、馬岱かぁ……馬岱……」
 まるで生気が抜け落ちた顔でふらふらと近寄ってきたかと思うと、夏侯覇はなぜか上から下まできっちり馬岱を観察してから消え入りそうな声で呟きました。
「馬岱もそうなんだよなぁ……」
「え? そう、って何が?」
「いいなぁ……はぁ……」
 そしてまた、ふらふらと歩いて行ってしまいました。

 ……???

 頭の中に疑問符をひたすら並べることしか、今の馬岱にはできそうにありませんでした。
 ですがもしかしたら、他の人間なら何か知っているかも知れません。
 いつも楽しませてくれる友人を救うため、彼と言ったらこの人、な感覚で一番関わり合いが深い男の元を尋ねることにしました。

  + + + +

「えっ、夏侯覇が……?」
 兄と一緒に鍛錬に励んでいた関索の休憩時間を見計らい、馬岱は早速尋ねてみました。が、返ってきたのは期待にはそぐわない態度と言葉です。
「残念ながら、私は何も……兄上は何かご存知でしょうか?」
「いや、すまないが拙者も何も知らない」
「そっか〜。うーん、一体どうしたのやら……」
 いつも明るく、周りを笑顔にしてくれる夏侯覇からそれらの元がごっそりなくなってしまっているのはよほどの事情があるからに違いありません。
 とにかく何かしら手掛かりが掴めればいいのですが……。
「ん? あれは夏侯覇殿では?」
 関平の視線を追うと、木の幹に腰掛けている夏侯覇が映りました。まだ抱えている正体不明の問題が解決していないのか、前屈み気味の姿勢になっています。
 名を呼びながら駆け寄りましたが、夏侯覇はぼんやりと馬岱達を見上げるだけです。
「これは、本当に何か深刻なことが……」
「でしょ? でも全然心当たりないんだよねぇ。もうどうしたもんか」
 関索は夏侯覇の隣に腰掛けて、覗き込むように見つめました。
「夏侯覇、どうかしたのかい? いつもの君らしくないよ?」
「あ〜そうか〜? いや、ある悩みがあるだけなんだけどな〜? ……って、関索! あと、関平殿!」
 急に名を呼ばれ、身体を微動させるぐらい驚いた二人をなぜか横に並べると、夏侯覇はその前に直立しました。
「……ああ、何この目線。何この見上げる感じ。俺彼女? 関索彼女いるのに?」
「ちょっ、夏侯覇! それは関係ないじゃないか!」 
「……羨ましい……」
「え、兄上何か言いました?」
「! いや、何でも」
 二人をよそに、夏侯覇はがっくりと肩を落とすとまた座り込んでしまいました。今度は膝まで抱えています。
 事情は相変わらずさっぱり見えないままですが、深い深い損傷を受けているのは確かのようです。きちんと回復しないと自害しちゃうかもと馬岱は判断しました。同じ体勢で隣に腰掛けます。
「ねえ、そのお悩み、この馬岱さんじゃ解決できない?」
「そうだよ、夏侯覇。私も協力するから。いつもの夏侯覇らしくないよ?」
「そうだな。拙者も微力ながら協力する」
 皆の声が心に響いたのか、上目でぐるりと三人を見回し……たのですが再び目線を下にしてしまいました。
「馬岱がなんか魔術でも使えたらって夢みたいなこと考えたけど……しょせんは夢だもんなぁ」
「魔術? そんな諸葛亮殿みたいな真似をしないと解決できないってこと?」
「そうだよ……ないものねだりだってわかってるけどさ……。しかしほんと、馬岱達にゃ当たり前のものすぎてぴんとも来ないんだなぁ。多分俺ぐらいの奴なら絶対『ああわかった!』って感じになると思うぜ?」
 当たり前のもの過ぎて?
 俺ぐらいの奴ならわかる?
 新たな謎解き用の単語に首を傾げる三人を黙って、少しずつ唇を「へ」の字にしつつ眺めていた夏侯覇でしたが、突然勢いよく立ち上がるとなぜか走り出しました。
「えっ、ちょっと夏侯覇殿!? いきなりどうしたの!?」

「しょせんお前らにゃ、背が低い俺の気持ちなんてわからないんだあああああぁぁぁ……」

 一呼吸くらいの沈黙の後。
「な、なるほどね……」
「た、確かに拙者達では、わからない問題では、あるな……」
「夏侯覇殿の言う通り魔術とか使わないと難しそう、っていうか解決しなさそうだよね……」
 そうつぶやくことしかできない長身の二人に対し、
「私も、決して身長が高い方ではないんだけど……」
 関索だけは夏侯覇の気持ちが少しだけわかるのでした。

「関索もあんまり身長高い方じゃないって? いやいやいや、俺から言わせれば十分高いよ? だって俺、鮑三娘殿にさえ負けてんだぜ? 父さんは馬岱や関平殿ぐらい身長があったらしいのにさ、これって酷くない? ねえ!」

 ……ですが、夏侯覇の中では、関索は同じ穴の狢扱いをされているようでした。

「なあ、諸葛亮殿! なんか身長をこう、すぐに伸ばせるような技とかない? 南東の風吹かせたようにさ!」
「い、いえ……申し訳ないのですが」
「夏侯覇殿! おかしなことを言って丞相を困らせるのはやめてください!」