恋人だから - 1/3

 数日前から、どこかおかしいと思ってはいた。
 喉が変に乾燥する感じ、口内の痛み、時々出る咳……。少し嫌な予感がしていたものの、忙しさを理由に自己管理を怠っていたのもまた事実だ。
 だが何もしなかった自分を悔やんでも、単なる後の祭りに過ぎない。
「……参りました……」
 屋敷の寝室で、陸遜は久しぶりの風邪を味わっていた。

  * * * *

「え、軍師さん風邪引いたのか?」
 凌統と合同で部下の鍛錬を行っていた甘寧は、凌統の言葉に目を丸くした。
「そうらしいよ? 今朝陸遜に用事があったから行ってみたらいなくてさ。副官さんがいたから訊いてみたら風邪で寝込んでるんだと」
 珍しいこともあるものだ。だが彼は今、休む暇も惜しいほど働いていたと耳にしたことがあるから、つかの間の休暇と思えばちょうどいいのかも知れない。
「そうだ、おっさんは知ってんのかな。軍師さんの屋敷にすっ飛んで行ってたりして」
 必要以上に焦る姿の親友を想像して笑う。呂蒙にとって陸遜は単なる部下以上の存在だからそうなってもおかしくはないのだが、普段が普段なだけに可笑しさを隠せない。
 水を飲みながら凌統が呆れた顔を向ける。
「あんたって奴は……。呂蒙さんを笑い者にしたら陸遜に怒られるよ?」
「だってあのおっさんが慌てふためく姿なんてある意味貴重だろー?」
「全く……。まあ、呂蒙さんなら当然知ってるでしょ。今頃は陸遜の屋敷にいるよ」

  + + + +

 呂蒙は今にも走りださん勢いで城内を進んでいた。すれ違う人間が皆、こちらを不思議そうに見つめるが構ってはいられない。
 おかしい。本当におかしい。
 今日は、普段以上の激務に追われていた。ここ最近はその状態が続いており、昼をきちんと取ったかどうかすらわからなくなるほどだ。「昼食は食べるように」と恋人に口酸っぱく言われるようになってから意識的に取るようにしているのにこんな状態とは、笑えない。
 集中力が緩み、さすがに少し一息入れるかと窓から外を見つめてみれば、青一色だったはずの空はうっすらと橙に染まりつつあった。そこである事実に気づき、ひどく驚いたのだ。
 恋人――陸遜の顔を、一度も見ていない。
 一日の内に、彼は一度でも必ず自分の元へと足を運んでくる。雑談だけでなく、大体「食事はちゃんと取っているか」「少しでも休憩を入れているか」など、言ってしまえば小言をこぼしてもいくのだが、陸遜の顔が少しでも見れることが嬉しかったし、いい息抜きにもなっていた。案外それを狙っての訪問なのだろうとも思う。
 だが今日は、来なかった。
 お互い仕事上での用事はない。自分と同じように多忙だったのかも知れない。そんな風にいくつか理由を並べてみたものの、すんなり納得できない自分がいた。
 ――陸遜に何かあったのではないか?
 瞬間、執務室を飛び出し、陸遜のいるであろう場所をまっすぐ目指している自分がいた。