恋人だから - 2/3

「りょ、呂蒙様!?」
 執務室の扉が勢いよく開かれたことに驚いたのだろう、副官がこちらを凝視する。
 陸遜の姿はない。
「突然すまない。陸遜がどこにいるか知ってるか?」
 単刀直入に尋ねると、なぜか副官は視線を外した。
「申し訳ありません、存じません」
「そうなのか。ならばなぜ、俺を見ないのだ?」
「い、いえそれは……」
 副官の態度に首を傾げる。
 なぜ言葉を濁す必要がある? こちらを見ない? 飲み込めない事情ばかりで、次第に苛立ちが募っていく。
「何を隠している。ただ陸遜の居場所を教えてくれるだけでいいんだ、頼む」
「駄目、なのです。陸遜様がその、呂蒙様には決して、教えるなと」
 口止め? 絶対に教えるな?
 ますます意味がわからない。落ち着いて考えれば糸口が見つかるかも知れないが、肝心の落ち着きを確保できそうにない。
 こうなったら力づくで――。
「あれ、おっさん?」
 聞き慣れた声に振り返ると、開かれたままの出入口前に甘寧と凌統が立っていた。二人ともなぜか不思議そうな視線を送っている。
「なんでおっさんここにいるんだ? てっきり軍師さんのとこにいると思ったのに」
「か、甘寧様っ!」
「甘寧、お前は何か知っているのか?」
 焦りを多分に含んだ副官の呼びかけを気にしつつも、甘寧は口を開く。
「あ、ああ。軍師さん、今日風邪引いて休んでるんだとさ」
 ――風邪?
「呂蒙さん、もしかして知らなかったのかい?」
 力なく頷く。二人が口にした事実も、なぜ隠したかったのかの理由も。
 何も、知らなかった。
「……お前達は、彼から聞いたのか?」
「たまたまね。正確には俺が、だけど」
 思わず眉間に力が加わるが、緩めるのは難しかった。
 自分一人が何も知らない。陸遜に関わることなのに、何も。歯がゆくて仕方がない。
「に、睨むなっておっさん。俺達だって詳しいことは知らないんだしさ」
「とりあえず今からでも陸遜の屋敷に行けば全部解決するんじゃないですか? 俺もらしくない行動だなって思うし、きっと陸遜なりの理由があるんでしょう」
 やはり副官から無理矢理にでも聞き出すしかないと思いかけていた呂蒙の思考は一瞬止まった。
 凌統の言葉は正論すぎて、気付かなかったことに恥ずかしさすら覚えた。軍師でありながら、私情にここまで振り回されるとは何と情けない。
 短い溜め息をついて二人に軽く頭を下げる。
「……すまん、凌統。甘寧も。今から陸遜の屋敷に行ってくる」
「はいはい、気をつけて。部屋には甘寧置いとくから安心してくださいな」
「おい、勝手に決めんなよ!」
「呂蒙さんに迷惑かけてばっかりなんだから、こんな時ぐらい役に立ちなよ。誰か来たらうまく誤魔化すだけでいいんだから。簡単でしょ?」
 いつも通りのやり取りに笑いながら部屋を出る。
 彼らが軽口を叩き合える仲になってよかったと、こんな時でもつい思ってしまう呂蒙だった。