「……マ。クマ。そろそろ起きないと学校に遅れるぞ」
うーん。もうちょっと寝ていたいよオヤジ……。
「早く起きないとお母さんの必殺……あ」
ん? ひっさつ?
「はーいクマちゃんそろそろいい加減起きましょーねー」
!? 何か、口の中に、とっても苦い物、が……
「くっ、ククククマああぁぁぁぁぁ」
弾けるように身を起こし、部屋から飛び出した。
「うー、ヒドい目に遭った……」
せき込みながらゆっくり階段を降りる。初めてではないといえ、母親の「料理失敗作詰め込み攻撃」は毎回破壊力ばつぐんだ。父親の声で起きられなかった自分が死ぬほど恨めしい。
フラフラな足取りでリビングへ向かう。とりあえずソファで一休みしなければ今日は頑張れそうにない。
だが目的地にはすでに先客がいた。兄と姉だ。
「おはよー……チエ姉ちゃん、ヨースケ……」
「おっはークマ。ってアレ、いつもより早くない? てかなんでそんなやつれてんの」
「いつもならまだ寝こけてるのにな。なんか用事でもあんの?」
「え?」
二人は不思議顔でこちらを見ている。自分からすれば二人の方が不思議だ。だって今日は学校のはず……。
「ごめん、クマ!」
「ごめんなさい! わたしってばうっかりして!」
その時、リビングに慌ただしい足音が入ってきた。悠と雪子だ。
「あー、なるほどねぇ」
背中で陽介の呟きが聞こえた。自分には全く展開が読めない。
「今日って土曜日だったよね!? なのに金曜日と勘違いしてて……! ムリヤリ起こしちゃってほんとごめんね!」
!!?
千枝がたまらずといった様子で吹き出す。
「お母さん、また曜日間違えたのか!」
そ、そういうことか……!
「千枝姉ちゃん、笑い事じゃないよ!」
陽介も苦笑している。
「多分、俺らが珍しく揃って早起きしてるから勘違いしちゃったんだろ。他のやつらも出かけてるみたいだしさ」
な、なんということ……。
休日は多少遅くまで寝ていられるという素敵特権があるのに、無駄遣いしてしまうとはっ!
「お、お袋ひどい、ひどいクマああ!」
「いや、気づけなかった俺が悪いんだ。ほんとごめんな」
「あなた……」
相変わらず悠は雪子に甘い。そんな悠を相変わらず雪子は大好きのようだ。兄と姉を見るとどこか生暖かい目つきになっている。幾度となく繰り返されている光景だから気持ちは痛いほどわかる。
まあ、そんなラブラブな二人を自分は大好きだけれど。
「お詫びといってはなんだけど、今日は夜みんないるみたいだから久しぶりにどっか食べにいかないか?」
今までの暗い気分が一気に吹き飛んだ。
「ほんとほんと? ステーキ? お寿司!?」
「お前気ぃ早すぎだってーの!」
「いやでもステーキはいいんじゃない? 肉肉ぅ!」
「相変わらずの肉バカっぷりだ……いててて! 暴力はんたーい!」
「はは、まだ何にするかは決めてないんだけど肉で考えておくよ」
「わかった! ……あ、カンジ達は知ってるの? みんな今日はお出かけしてるんだよね?」
みんな自分の仕事やアルバイトがあったはずだ。りせと直斗は仕方ないとしても、完二が朝から編みぐるみ教室に行くのは結構珍しい。何か大きめのイベントでも控えているのだろうか。
「あとで俺が連絡しておくよ。心配しないで大丈夫」
そこで千枝が慌てて荷物を手に出かけていった。それでも顔が緩んでいたからきっと肉に意識を取られまくっているのだと思う。
「ヨースケは何の用事? お友達とお出かけ?」
「いんや、買い物だけど」
「じゃあクマもついて行っていい? ってか行きたい!」
ヨースケは雪子みたいにちょっとドジなところがあるから、ちゃんと見守ってあげないと。決して何かを強請りたいわけではないのだ。うん。
「えー……いいけど、強請るの禁止な」
「っい、いやねーヨースケ。ただついて行くだけよ? 自分の物は自分で買うクマよ?」
陽介の目が細くなった。やばい、完全に怪しまれている。というかばれている。
「なら今日は特別サービスで、はい。さっきのお詫びにお小遣いあげるから楽しんでらっしゃい」
「無駄遣いするんじゃないぞ?」
「わーい、ありがとクマ〜! ちゃんと遣いすぎないように気をつける!」
雪子から臨時収入をもらってしまった。今日はきっとアンラッキーではなくラッキーな日だったのだ!
「そうと決まったら早速準備! ヨースケちょっとだけ時間をくれクマ!」
「はいはい。慌てすぎて階段から転げ落ちるなよー」
背中に受ける笑い声につられて、ひとり自然と唇がゆるんだ。
