鼻孔と口の中と視界の先と。
どこもかしこもハンバーグだらけで幸せな気分が全く途切れない。
「っていうことが朝あったのよ。もーほんとお母さんて時々抜けるよね」
「普段あんなにきっちりしてるのにねー」
千枝とりせが笑い合う。雪子は顔を赤くして頬を膨らませた。
「もう! そんなに言わなくてもいいでしょ?」
「みんなの前だから気が緩んじゃうんだよな。仕事の時は完璧なの知ってるだろ?」
悠の言葉に頷く。なんたって先祖代々から続く天城旅館の女将なのだ。
「にしてもこのハンバーグ超絶うまいな。姉貴のチョイスか?」
大きく切り分けたハンバーグのひと切れ目を口に運びながら完二が向かいの千枝に尋ねる。途端、彼女の顔が金ピカのように輝いた。
「よくぞ聞いてくれた! そうなのそうなの、この間見つけたんだよここ!」
小さすぎて物足りない、普通でも大きすぎて食べ切れない……そんな人の胃袋具合に合わせて全ハンバーグに必ず五種類のサイズが用意されていて、値段のわりに高級感を覚える味――とは千枝の情報だが、本当その通りだった。さすが肉マスターである。
「今日はほぼ一日動き回っていたので結構ありがたいです」
「俺も。昼はまともに食ってなかったからなー」
「カンジもナオチャンも忙しいのね?」
つい心配になって訊くと、直斗には微笑まれ完二にはがしがしと頭を撫でられた。
「今日がバタバタしてただけだって」
「僕もですよ。たまたま難航……行き詰まっていただけです」
「そ、そうクマか。よかったー」
無理をして身体でも壊したら大変だ。
「おおいクマ。心配なら俺の方をしろぉ」
「ふえ? なんで?」
本気で問い返すと額にデコピンを食らった。威力は低いがそれでも痛い。
「バイト先でお前をきょーいくしてんのはだれだ〜〜〜」
「っ! よ、ヨースケ様でございクマーーー」
「うむ、わかればよろしい。もっと俺を敬いたまえよ」
悔しいが逆らえない。機嫌を損ねたらいろいろ教えてもらえなくなる。
「りせは、レッスンの調子はどうだ?」
大きめの器に盛られたサラダをフォークに載せたりせは悠に満面の笑みを向けた。
「うん、順調だよ! でも来月にライブ控えてるし、あんまり無理はしないようにしてる」
「それがいい。りせは人一倍頑張り屋だからな。心配してるんだぞ?」
「ぶー。あたしだってちゃんと考えてるもん」
そう言いながらも頬はうっすら赤い。心配してくれているのが嬉しいのだとわかってしまう。それに気づいた千枝が突っ込むと、もっとりせは赤くなった。笑い声がみんなを包み込む。
それからも、家族間の会話は止むことはなかった。
みんな、幸せそうに笑い合っている。
そんなみんなといられる自分は、きっと世界一幸せだ。
ずっと、ずっと一緒にいたい。
ずっと、この幸せを味わっていたい――。
