花主Ver - 3/4

 悠が持っていたのは、ふわふわの黒い毛で覆われた猫コスプレセット――猫耳がついていたからそう判断した――だった。
 この流れになって本当によかったと思ったのは尻尾付きワンピースの存在だ。
 丈がミニ過ぎる。トランクスを履いていたら見えるか見えないかの瀬戸際なくらいミニ過ぎるのだ。
 さらに黒髪のショートウィッグまで付いて、悠がどれだけこのイベントとやらに気合いを入れていたか十分理解してしまった。
 だからこそ自分も全力で、それこそ恥も捨てる覚悟で応えてやらねばならない。
 決して悠の、ふっきれながらも微妙に恥ずかしさの抜けていない猫姿が可愛く見えて思わずムラッ気が出てしまっただけが理由ではないのだ。
 
 
『そんなとこ撫でられても引っ張られても何にも感じないけど』
 つい先程までそう自信満々だったのはどこの誰だったろう。
「あ……っ、はぁ……!」
(また、すげー気持ちよさそう)
 すでに三本もの指を飲み込んでいる内を掻き回しながら猫耳を軽く摘んで引っ張ると、漏れる声に明らかな艶が加わった。背中が面白いくらいに跳ねている。
(なんか変な力でもあんのか? この服)
 胸をいじりながら尻尾を握った時も一瞬大きな反応を示したのだ。なんの変哲もない黒猫コスプレ衣装なのに、不思議で仕方ない。
「悠、そんなに気持ちいいの? この耳」
 わざと乱暴に撫でる。
「あとこの尻尾も」
 根元から軽く掴んで先まで引っ張る。
 一際大きな嬌声が部屋を満たした。
 どうしよう、可愛い。
 猫を捕らえる獣の気分で唇を舐めて首筋に押しつけ、再び舌を伸ばす。塩辛さと悠の味が口内でどこか魅惑的に踊る。
「も、頼む……から……」
 顔の片面を布団に押しつけたまま、悠が解放を必死にねだってきた。その瞳は肉欲と熱を多分に含んでいる。
「おねがいだ、ようすけ……!」
 無意識に、喉を鳴らす。
 あの悠が、こんなに感情をぶつけてくるなんて。
 たまに体位を入れ替えることはあっても、今日の乱れぶりは初めてに近い。
 いつもと違う状況に興奮しているのは、自分だけではなかったのだ。
 悠も、同じくらいの興奮を感じていたのだ。
 突き上げるような愛しさを覚えて、仰向けにさせた悠の唇に勢いよく吸い付いた。驚きで半開きだったそこは舌の侵入を簡単に許してしまう。
「ゆう……っ、ゆう……!」
 悠の唇から蕩けるような吐息が絶え間なく溢れている。
 ――気持ちいい。もっと欲しい。
 言外の訴えが、叫びが、はっきりと聞こえてくる。
 もう自分も限界だ。
 悠の秘孔に己のモノを押しつける。微妙な緊張を感じ取った後に勢いよく貫いた。
「あぁっ……んう、ふ……!」
 喉をのけぞらせた悠は慌てて口元を押さえた。……そうだ、菜々子ちゃんの存在を忘れていた。
「その……悪い、悠」
 怒られるかと思ったが、軽く首を振っただけで終わった。
「いいっ、からはやく、動いて……」
 くぐもった声で訴えてくる悠に普段の余裕は全くない。どこまでも弱々しい姿に正直、興奮が加速するばかりだ。
 いっそ、滅茶苦茶にする勢いで抱いてみたい。
 悠の足を掴んで、自らの肩に抱え上げる。一層きつくなる締めつけを振り払う勢いで腰を何度も打ち付けた。
「……っふぅぅ……っん、む……!」
 ウィッグも猫耳もいつの間にか外れ、灰色の柔らかな髪が額に貼り付いていた。
 ワンピースを覆う黒い毛のところどころに、どちらのものかわからない白濁の液が飾っている。スカートの隙間からはそそり立った悠自身がちらちらと覗いている。
 悠のこんな乱れた姿は貴重だ。きっと、一生お目にかかれない。
「っは、は……も、マジ、たまんね……っ」
 一度自身を引き抜いて、四つん這いの格好になるよう命令する。
「な……っ!?」
 目を見開く悠の身体を無理矢理うつ伏せにさせて、尻を持ち上げる。
 ――貴重だからこそ今日はとことん、獣にでもなったつもりでやってみたい。
「今日は背後から、な?」
 耳たぶを食み、服の隙間から差し込んだ手で胸元や背中を撫でるとすぐに緊張が解けていく。上がりっぱなしの興奮に身を任せたまま、再び自身を埋め込んだ。
「あ、ああ……! それっ……やめ……!」
 抜き差しだけでなく、悠の弱い部分に擦り付けるような動きも混ぜてやると、腰が面白いくらいに跳ねる。押さえることを諦めた口からは砂糖以上の甘い悲鳴が止まらない。
「へへっ……ほんとは、気持ちいいんだろ? さっきからココ、垂れ流してばっかりだぜ?」
「っ……うる、さい……」
「ほら、この尻尾だってゆらゆら揺れてるし、な」
 軽く握って引っ張る。やはり反応を示す姿に、冗談抜きで身体の新しいパーツとして加わったのではないかと錯覚しそうだ。
「っ!?」
 急に締めつけの力が強くなり、一瞬息を詰まらせてしまった。
「はやく、動け……陽介」
 震え声の命令が飛んでくる。
 敢えて従わずにいると煽るように腰も動かし始めた。
「たのむから……もう、我慢できない……!」
 屈辱感、悔しさ、それを上回る快楽と熱――そんな感情達が、悠の声から伝わってくる。
 ああ、もう本当にたまらない。
 思わず笑いを零しながら勢いよく貫く。今まで味わったことのない刺激に翻弄されて、余裕も理性もすでに消えていた。
 頭がくらくらする。耳に届くすべての音にさえ犯されているような心地だ。
 もっと、もっと乱れて。
 もっと、もっと気持ちよくなって、自分も乱して。
 背中に覆い被さり、悠の中心を掴んで強めに扱く。
「や……! は、ああぁ……!」
 さらに最奥だけを重点的に攻めてやると、悠の後頭部がふるふると左右に振られた。
「ほんと、おかしく、なるからっ……!」
「いいよ、なればいいじゃん……」
 肩甲骨の辺りに記念の印を残す。今夜は互いにとって忘れられない日になるだろう。
「俺だってもう、とっくにおかしくなってんだからさ……!」
「こっ……あ、ば、かが……!」
 悠からの文句はそれ以上続かなかった。
 代わりに、絶頂が近いことを物語る喘ぎが漏れるばかりだ。
「悠……いっしょに、な?」
 無言の頷きが返ってくる。
 それからわずかな時間の後に、濃密な空気で満たされていた部屋に静寂が戻ったのだった。