「ほら、ここはこの式を使うんだ」
「……呂蒙殿」
「そして出た解を当てはめて……なんだ?」
「あの、本当にずっと勉強なさるおつもりで?」
今年のクリスマスは悲しくも平日。
そして特に教師は年末ということで忙しく、落ち着いた時間は取れない。
ならばと勉強を口実にして日曜から押しかけてみたものの、本当に勉強しかしていない。夕飯を終えてもまだ勉強しかしていない。
恋人としての甘い展開を期待して、わざわざ宿泊グッズまで揃えてきたのに……。
「おお、もうあんな時間だったのか。気づかなくてすまんな」
眼鏡を外してこちらを申し訳なさそうに見てくる。
いいや、わかっている。申し訳ないの理由の期待は全くしていないから大丈夫、だ。
「ほら、歯でもみがいてこい。その間に布団を敷いておくから」
その場で崩れ落ちたい衝動を必死に堪えて、折り畳み机を片づけ始める呂蒙の背中を見つめる。視線だけで内心が伝わればいいのにと無駄な願望さえ抱いてしまう。
わかって、いるつもりだ。さらに言えば勝手に押しかけたのは自分だし呂蒙は非常に奥手だとも慎重すぎるともわかっているつもり、だった。
けれど明日にクリスマスイブを控えているとは到底思えないほどの見事なスルーぶりはさすがにない。断言しよう、ない。むしろ敢えて気にしないようにしているのではと勘繰ってしまう。
「どうした? 早く行ってこい」
――嫌だ。絶対、恋人として今夜を過ごしてやる。無駄になんて終わらせない!
「呂蒙殿……」
布団を敷いていた背中を包むように抱きしめる。わずかな緊張が伝わってきたことに少し笑うとさらに力を込める。
「きゅ、急になんだ陸遜」
「訊かなくとも、おわかりなのでは?」
すると完全に押し黙ってしまった。……自覚はあったということか。
「……勉強もただの口実だと見抜いていたのですね」
「り、陸遜」
「ひどいです、呂蒙殿。私はそのつもりでずっといたのに、気づかないふりをなさるなんて」
泣きそうな声を演出したら案の定、慌ててこちらを振り向いた。
生まれたチャンスはもちろん逃さない。頭を引き寄せて軽く口付ける。
「だから、ちゃんと責任を取ってくださいね?」
今度は満面の笑みを浮かべる。明らかな動揺から視線を外す呂蒙だったが、敢えて何も言わない。
いい加減な気持ちでここにいるわけではないのだ。
「そ、その、俺達は確かに恋人同士だが、な……」
「行為自体は初めてではないですよね?」
その時も誘ったのは自分からだったが、最終的には呂蒙もひたすらに求めてくれていたからとても嬉しかった。呂蒙の本心が垣間見えた事実が、綺麗に不安を取り除いてくれた。
「だっ、だからこそだ! 俺は昔の癖で突っ走りがちなところがあるから……!」
「なら、なおさら嬉しいです」
わざと呂蒙の顔を覗き込む。もっともっと自分に夢中な恋人が見られるなんて、どんなクリスマスプレゼントも霞んでしまうくらい魅力的だ。
呂蒙を心から慕い、愛しているからこそいろんな面を見てみたい。恋人しか知り得ない部分を独占したい。
「ね、呂蒙殿……今日はクリスマスのせいにして、もっと私に夢中になりませんか?」
固く握られた拳を両手で包む。身体を擦り寄せて上目遣いで見つめ続けるも、呂蒙の視線は全くこちらに降りてこない。楽しいクリスマスを迎えるためには折れてやる気などさらさらないけれど、頑なな態度を貫く姿にもそろそろ焦れてきた。いっそのこと押し倒せばスムーズに事が進むかも知れないが、敢えて実行はしたくない。
呂蒙からその気になってくれた証が欲しい――そう願うのは、わがままなのだろうか。
どうにかしたいのにどうすればいいのかわからない。もどかしさが募り両手に力が篭る。
その瞬間だった。背中に軽い衝撃と、両腕から圧力を感じた。
「りょ、もうど……」
唇を塞がれた。早急な動きで、呼吸を奪うかのように角度を変えながら何度も重ねられ、舌を捕われて全身に震えが走る。
「……どうした? 大見栄をきったわりには震えているじゃないか。怖いのか?」
不敵に笑い、頬から喉、鎖骨へと指先がゆるりと通っていく。我慢できずに吐息を溢すと部屋着の中にも滑り込ませてきた。
怖い? とんでもない。むしろ歓喜しか存在していない。自分のわがままが叶ったのだと実感しているのに!
否定の代わりに身体の中心を呂蒙の足に押しつける。声を詰まらせてこちらを凝視する目に笑みを返した。
――ああ、よく見れば本当に呂蒙も余裕がないみたいだ。
ネクタイの結ばれていない、いつもの白シャツから覗く肌は薄く赤いし、何より胸に触れている手が熱い。
上も下ももどかしい刺激を受けて、徐々に苦しさを覚えていく。あんな言葉を投げていたわりに、呂蒙は未だ迷っているのだ。
――もう、諦めて大人しく素直になればいい。状況を忘れるほど夢中になればいい。
お願いだからもっと強く、激しく弄って……。
「りょ、もうっ……どの……!」
瞬間、目の前が眩しく光った。
急速に、熱が自身へと収束していく。腰を動かすことができずに布団へ預けてもなお、呂蒙は容赦なく攻め立てる。
どんな顔をしているのか、確認したくともできないのがたまらなく悔しい。悔しいのに、海中に放り込まれたように身体が言うことを聞かない。ただただ快楽に染まっていくだけだ。
「あ……っは、ああ、あ……!」
一層強く膝を押しつけられて、背中が仰け反った。股間にぬるい熱と湿った感触が広がっていく。
呼吸を整える暇もないまま再び唇を塞がれる。胸元、そして下半身を剥き出しにして、それぞれ乱暴に弄り始めた。
このままではまた絶頂を迎えてしまう。震える手を呂蒙の腕へ必死に伸ばして訴える。
「また、イきそうなのか?」
「も、はや、く……」
呂蒙と繋がりたい――そう思いを込めたつもりだった。
「なら、もう一度そうしておくか」
視界から意地悪い笑顔が消えた。頭に疑問符を浮かべかけて、目元に力がこもる。
懸命に頭を持ち上げると、呂蒙が自分のモノの先端を舌で大胆に舐め回していた。両の指でも扱かれて、気だるさは瞬く間に上書きされていく。
「や、だ……はげし……」
「夢中になれと言ったのはお前だろう? だから俺は素直になることに決めた。それだけだ」
その証拠だと言わんばかりに、呂蒙は夢中で自身を貪っている。どこか子供を思わせる姿に、こんな状態にもかかわらず可愛いと思ってしまった。
先ほどと同じように声が止まらない。腰の揺れもだんだん大きくなるばかりだ。
「りょ……っ、い……!」
頭の中から一切の情報が消える。癖のある呂蒙の髪を掴みながら痙攣に似た震えが全身に走って、すぐに倦怠感が襲う。
「二回目なのに……やはり、若いな」
靄のかかった頭では、言葉の意味を全く理解できなかった。
こちらの訝しげな顔に対してだろうか、呂蒙は小さく笑いながら口元を拭う。
「この分なら、いくら求めても問題はなさそうだな、陸遜?」
口から零れたのは、答えではなく短い悲鳴だった。
秘孔を、呂蒙の指が貫いた。すぐに本数は増え、どこか余裕の感じられない動きで抜き差しを繰り返し、中を掻き回す。少しごつごつとしているぶん、擦られている部分すべてに絶妙な刺激を与えていくのがたまらない。
また、熱が収束していく。
「……っもう、どの……!」
首筋に唇を這わしていた呂蒙の背中を掴んで、訴える。
――私を求めているなら、呂蒙自身で求めて欲しい。今度こそ、あなたと繋がり合いたいんだ。
ゆっくりこちらを見つめてきた呂蒙の瞳は色欲に支配されていた。獲物を前にした獣そのものと言ってもおかしくない。
思わず喉を鳴らす。普段はやきもきさせられてばかりで奥手な呂蒙も間違いなく「男」なのだと今、改めて実感した。
――ああ、嬉しい。あの呂蒙がこれほど自分に浮かれてくれるなんて、こんなに幸せなことはない。
「はやく、来てください……りょもうどの……」
呂蒙の首に腕を巻きつけてねだる。
「……後悔しても知らんぞ」
後悔なんてするはずありません。
そう返したかったが、指以上の衝撃が単なる悲鳴へと塗り替えてしまった。
