「こんにちは~」
珍しくのんびりとした空気が流れている「ゼロ」内に新しい風が吹き込んできた。
息抜きのコーヒーを楽しんでいた降谷零が、その声に即座に反応する。
「おや、コナン君じゃないか」
「二週間ぶりくらいかしら?」
近くにいたメンバーたちに笑顔を返しながら、コナンはまっすぐ降谷のもとに歩み寄る。
「探偵の勉強かな」
「それもあるけど、近くを通りがかったから。零さんに会いたくて」
降谷の顔がわずかにほころぶ。その変化を悟れたのは右腕に相応しい存在である風見祐也だけだった。
「なら、これからある現場に風見と向かうことになっているんだが来るか? かなり特殊な事件らしいんだ」
「もちろん、ついていくよ!」
高校二年生の江戸川コナンだが、現場に連れて行くことを止める者は誰もいない。それは降谷のおかげでもあるが、少年ながら意外に頭脳が役立つことを知っているからだった。
「依頼が回ってきた時に、一度部下に現場を見てもらってはいたんだけどどうにも手強そうでね……」
「俺も見せてもらいましたが、確かに報告書を読んだだけでは理解できませんでした」
後部座席に座るコナンは、二人の会話を聞きながら手元の書類を読み込んでいた。人気のない路地裏で二十代の男性が刺殺されたらしいが、その男性のものである大量の血液が近くにある公園で見つかったとのことだ。つまり殺人が行われたのはその公園ということになるが……。
「なるほど……殺された人以外の人物の目撃情報が全然ないんだね」
しかも彼に関わりのある人物のアリバイも完璧だと言う。
「これは確かに手詰まりになっちゃうね。気になる点も少しあるけど、現場を見てみないとなんとも言えないな」
降谷にも引っかかる点はいくつかあったが、そこにすぐ辿り着くとはやはり素晴らしい頭脳の持ち主だ。
「わかった。協力するよ」
書類から顔を上げて、コナンは改めて頷いた。
「……コナン君、もしかしてわくわくしてる?」
どこか呆れたような降谷の声に乾いた笑いが返ってくる。
「少しだよ、本当に少し。一番は、犯人をこれ以上野放しにさせないっていう気持ちだから」
「それはわかってるよ。充分ね」
「本当に助かっているよ。いつもありがとう」
コナンが改めて資料を確認し終えたところで、問題の現場に到着した。車から颯爽と降りた彼を、降谷たちも慌てて追いかける。
現場を丹念に確認した三人は、コナンの助言や報告にはなかった証拠らしき痕跡から、仕事上の付き合いがある三十代の女性と、大学からの付き合いである同い年の男性二人が怪しいと目星をつけた。
事件を担当していた刑事からその三人の情報を提示するよう依頼したところで、コナンは帰宅することとなった。
「零さん、相変わらず過保護なんだからなー」
「むくれても駄目。君のご両親との約束なんだからね」
現場検証に時間をかけたおかげで、警察庁に戻ってきた頃にはすっかり日も落ちていた。
「事情聴取の結果が出たら教えるから。俺と風見が担当するんだ、何も問題ないだろう?」
自信たっぷりに言い切られては、コナンも強気に出られない。特に降谷が優秀な警察官であるのは、彼自身が一番よく理解していた。
降谷の手が視線の下にある頭に乗せられた。軽くかき混ぜるように撫でると、見上げるコナンの目線がわずかに緩む。
「今日は、早く帰れるの?」
「事情聴取は明日以降になりそうだしね。たぶん」
「わかった。じゃあ、先に帰るよ」
「気をつけるんだよ」
コナンは最寄り駅に向かって、降谷と風見は警察庁内に向かってそれぞれ足を進めていった。
