玄関から物音がして、ぼんやりテレビを観ていた彼は早足でその場所へと向かった。
「お帰り、零さん。本当に早く帰ってこれたんだね」
「ただいま。意外と早く仕事が片付いたんだ。ご飯はもう食べた?」
「うん。すっげー簡単にだけど野菜と肉炒めたやつ作ったよ。食べる?」
問いにすぐ頷いた降谷は彼に促されるままにスーツを脱いだ。洗濯場に残りの汚れ物を入れながら、だんだん家事が板についてきた姿が実は嬉しいなどと告白したらどんな顔をするだろうかと、時々考えてしまう。
「今日は本当に助かったよ。急に連絡したから大丈夫かなって思ったけど、来てくれてよかった」
「そりゃあ『ゼロ』エースの降谷零さんからの依頼とあったら、断らないわけにはいかないだろ?」
きらきらとした瞳を向けてきた彼に少し見とれてしまったのは内緒だ。持ってきてもらった缶ビールを大げさに煽ることで誤魔化す。
「さすが、俺の切り札だけあって頼もしいよ。新一くん」
彼――工藤新一はさらに口端を持ち上げてみせた。
「まあね。もう二年経つし?」
新一が降谷の切り札的存在でいるのは、降谷自身の願望だった。
彼を手の届く場所に置きたかった。いつでも彼に触れたかった。
公私混合なのは百も承知だ。新一にもかなりの無理を言ってしまった。
「工藤新一」として行動する時は、同棲している部屋以外で降谷に直接接触はしないこと。
接触する時は、仮の姿である「江戸川コナン」として振る舞うこと。
これは新一を見えない驚異から守る目的もあった。
よくも悪くも、「ゼロ」の評判はかなりのものだ。工藤新一の名前も裏では知らない者はいないと言われている。彼が「ゼロ」の心臓部であると評する声まであるほどだ。
当然、その命を秘密裏に奪おうとする輩も出てくる。
降谷自身の名誉にかけて、あるいは恋人として、あらゆる脅威から守るつもりでいる。
だからこそ、「江戸川コナン」の名を与えた。
絶対に失いたくないという、決意を込めて。
『オレは構わないよ。降谷さんがオレの頭脳を求めてくれてるなら、ただ応えたい。助けになりたい』
両親の反対を押し切って告げた新一の言葉は、今も降谷の胸に深く刻まれている。
