名探偵は秘密兵器? - 4/4

「なあ、零さん。もっとオレにヘルプ頼んでもいいんだぞ?」
 行為後のなんでもない会話が途切れた瞬間、少し間を置いてからそんな言葉がかけられた。
 降谷は訝しげに頭を持ち上げる。
「仕事の話? 突然だね」
「ずっと考えてたことだから。オレ、もっと零さんと『ゼロ』の役に立ちたいんだ」
 探偵としての知的好奇心を満たしたい、なんて願望が見え隠れ……はもちろんしていない。探偵の夢をいだき始めた当初はあったかもしれないが、事件と向き合っている時はただ、被害者を想って頭脳を働かせているのがわかる。
 うつ伏せになっていた新一は上半身を起こし、改めて降谷を見つめた。濃いスカイブルーの瞳は終わりが見えないほどに澄んでいる。
「零さんを助けたいから、零さんと一緒になることを選んだ。この気持ちは今でも全然変わってない」
 それは降谷もわかっているつもりだった。
「あのさ、オレのことすっげえ大事にしてくれてるだろ。だから厄介中の厄介な事件が回ってきても、ぎりぎりまで連絡してこない」
 当たってる? とずばり問われて、何も返せなかった。
 降谷が所属する組織『ゼロ』は、基本的に解決が困難とされる事件を専門に扱っている。その中身も多種多様で、時には足を突っ込んではいけない、下手にあぶり出してはいけないとされるものまで含まれる。解決に導いても表には決して流れない。
 ゆえに、『ゼロ』は優秀と評される以上の能力値はもちろん、内部の情報を徹底的に秘匿することも求められる。仮に自身が死に至ったとしても、それを守り通さねばならない。
 こんな組織ゆえに、敵は多い。いつ背後から寝首をかかれてもおかしくない。ある意味、爆弾を抱えて歩いているのと同等かもしれない。
 だからこそ――江戸川コナンの名が必要だった。『ゼロ』の懐刀と噂される探偵、工藤新一の存在の特定を避けるために。見えない敵から、新一を守るために。
「でも、オレだって零さんが大事なんだぞ」
 布団の外に投げ出されていた降谷の手を、新一はそっと持ち上げた。大きさはわずかしか変わらないのに、とても大きく、重く感じる。
「だから、どんなことでもいいから力にならせてくれよ。オレならそんな簡単にくたばったりしない、絶対大丈夫だから」
 こういう時、心の底から敵わないと思ってしまう。
 きっと、どんなリスクも承知の上で新一はこの願いを口にしているのだろう。そして、実際に目前に迫ったとしても必ず退けてやると自信たっぷりに言い切るに違いない。
 理屈では証明できない、保証があるわけでもない、けれど信じてしまいたくなるこの強さこそ、降谷が一番に惹かれた部分だった。憧れさえ覚える。
「君は……本当に、とんでもない子だ」
「『ゼロ』のエースに褒めていただけて光栄です」
 小さく笑った新一の唇に軽く触れる。
「そうだな。これからはもっと君の力を借りることにしよう。実際、借りたいと思う案件が増えてきているし」
「そうこなくっちゃ」
「でも、コナン君として振る舞っている時は誰か一人、護衛をつけさせてほしい。どこから危険がやってくるかわからないしね」
 新一はなぜか首を振った。よほどのことがない限りは大丈夫とまで言い切る始末だ。
「オレも何か格闘技を身につけたほうがいいかもって思ってさ。稽古つけてもらってんだ」
 降谷には完全に初耳の情報だった。一体いつの間にそんな習い事を!
 呆然としている恋人に、新一はあくまでいたずらが成功した子どものようなノリで続ける。
「零さん全然気づかないんだもんなー。もう二ヶ月になるんだぜ? 講師はなんと、赤井さんなんだ」
 ……この状況も手伝って、一番聞きたくない名前を聞いてしまったような、気がする。
 というか、奴はアメリカにいるのが主じゃなかったか?
「今すぐやめてくるんだ。稽古は俺がつける」
「相変わらず赤井さん嫌いなんだなぁ。別に何かされたわけでもないんでしょ?」
「そうだ、そうだが、生理的に受け付けないんだ! というか話をそらすな、やめなさい!」
「やだね。やっと実践できるレベルになったんだから。もっと鍛えないと」

 二人の、前進も後退もしない言い合いはもうしばらく続いた、らしい。

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